財団概要

設立趣旨

 わが国医学の最近の進歩は頗る顕著なものがあり、世界の水準を抜くものがあることは、各国医学界においても既に認められているところであります。この急激な進歩発展は、高度経済成長と相俟って発展したその背後にある隣接諸科学との綜合の結果であることは言うまでもありません。しかしながらこの進歩発展があまりにも急激かつ顕著であるため、専門化が鋭角的・一方的になり、置き忘れられている研究並びに診療分野があることも事実であります。
 その一つが成長科学の研究と成長障害疾患の診療並びに予防であります。身体の発育並びに性の分化発達の科学的機序に関する研究は、最近世界的に盛んになってまいりましたが、わが国医学におけるこの分野の研究は未だ不充分であります。わが国の成長障害者は約12万人を越えている現状にありますが、これら患者に対する医療のための研究及び診療は欧米諸国より一歩遅れています。
 例えば、治療については、下垂体性小人症の治療のため、欧米諸国では、遺体から下垂体を集めてヒト成長ホルモンを抽出し、これを治療に使用しておりますが、わが国では、遺体からの抽出が行われていないため、ヒト成長ホルモンは輸入に頼らざるを得ない状態にあります。しかしながら、これを輸入に頼ることは輸入量が制約されるため多くの患者は治療可能であるにもかかわらず治療を受けられず、みすみす治療の機会を失している気の毒な状態にあります。
 わが国において遺体からの角膜移植や腎移植が行われていることを考えると、患者の救済のため、本人の遺志又は遺族の承諾を得て遺体の下垂体からヒト成長ホルモンを抽出し、これを治療に使用することも同様に認められるべきことと思います。
 また、現在のように外国人の下垂体から抽出したもののみを治療に使用することは、国際的にも文化的にも問題であります。
 そこで本会においては、ヒト成長ホルモンの国産化を推進するとともに、ヒト成長ホルモンによる治療の適応患者の最も簡単で正確な決定方法の開発、最も効率的な投与量の研究及び他薬剤との併用の研究等を推進し、治療の機会を失っている患者を一人でも多く救済できるようにしたいと考えます。
 さらに他原因による小人症の発生機序や治療に関する研究及び成長機序の解明のための基礎的研究を行いたいと考えます。成長機序を解明することは諸種疾患の発生機序や病態の解明にも役立ち、さらに腫瘍の発育を抑制する方法の開発にもつながるものであり、それら研究の成果は、医学の進歩、人類の福祉に貢献すること多大なものがあることは疑う余地がありません。
 これらの点に思いをいたしまして、財団法人 成長科学協会を設立し、わが国国民の健康の維持発展を念願するものであります。

昭和52年5月12日