指定課題研究報告


平成19年度指定課題研究報告(最終報告−2)
食物からのヨウ素摂取量算出のための食物摂取頻度調査票の開発



食物からのヨウ素摂取量算出のための食物摂取頻度調査票の開発
主任研究者 布施養善 (東邦大学医学部新生児学教室
     現:国立成育医療センター研究所)
 山口 曉 (医療法人成和会山口病院)
 布施養慈 (帝京大学医学部産婦人科学教室)





研究の背景と目的

 ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に必須であり、その欠乏および過剰はさまざまな病態を引き起こす。わが国は他の国と比較し、食事からのヨード摂取量は多く、過剰と指摘されることもある。ヨウ素は法律に基づいて定期的に行われている国民健康・栄養調査(1)において栄養素等摂取量の算出対象に含まれていないため、日本人の食事からのヨウ素摂取状況については正確なデータはない。
 人体に摂取されるヨウ素の大部分は食品に含まれるものであり、また食物から摂取されたヨードの90%以上は尿中に排泄される。したがって尿中ヨウ素はヨウ素摂取量の生体指標となり、疫学的調査方法によってある地域集団のヨウ素摂取状況を推測することが可能である。実際に摂取する食物からのヨウ素摂取量を測定するための食事調査法はいくつか欧米で報告されているが(2,3)、日本人を対象とした調査法の報告はない。我々は平成19年度指定課題研究最終報告−1において全国的に販売され、容易に入手できる加工食品中のヨウ素含有量を明らかにしたが、このデータをもとに食品からのヨウ素摂取量を評価するためにヨウ素に特定した食物調査法を開発し、その妥当性、有用性を検討した。


方法


1.食物摂取頻度調査票の作成


 ヨウ素について、その一日摂取量を算出するための食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire, FFQ)を作成した(表1)。食物摂取頻度調査票は食物リスト、摂取頻度に関する質問、目安量(1回あたりの平均的な摂取量)に関する質問の3つの要素からなり、対象とする食物あるいは栄養素の習慣的な摂取量を問うものである(4)。
(1)食物リスト
 ヨウ素含有量について文献的データのある食物のうち、ヨウ素含有量が比較的高く、入手が容易で一般的に広く摂取されている原材料的食品と加工食品(原則として、工業的に生産され全国的に流通する製品)を選択した。海藻類を原料とする加工食品が14種、だし・調味料などが8種類、魚介類が5種類、その他の食品が5種類である。
@海藻類は「昆布」、「わかめ」、「海苔」、「寒天」を用いた料理11点と「ひじき」、「もずく」、「めかぶ」の3点である。
Aだし・調味料は自家製ではなく市販されている品で、「だしの素」は粉末だし(パック類も含む)であり、「だし汁」は液体だし(濃縮だしも含む)、「鍋のつゆ」は即席の鍋類つゆ、「めんつゆ」はうどん、そば、そうめんなどのつゆ、「お吸いもの・スープの素」、「即席みそ汁」は即席の品である。調味料は「ポン酢」と「昆布だし入りしょうゆ」の2点を選んだ。
B魚介類のヨウ素含量は五訂日本食品成分表には7種類が記載されているが、可食部100gあたり100μg以上のヨウ素を含む「いわし」、「さば」、「かつお」、「ぶり」、「塩鮭」の5点を選んだ(5)。
Cその他の食品として、「ヨード卵」、「カップ麺」、「昆布茶」、「ペットボトル飲料」、「サプリメント類」の5種類の食品を選んだ。
 だし・調味料とその他の食品については普段、使用している商品名を記入する欄を設け、参考のために昆布を含んだ11種類109点の既成加工食品名を一覧表にして添付した(表2)。
(2)1回摂取量
 これらの食品の1食分、すなわち1回摂取量(Portion size)は調理学で一般的に用いられている量とした(6,7)。ポン酢、昆布しょうゆについては小さじ1杯量である。
(3)摂取頻度
 摂取頻度に関する質問は10段階の選択肢(殆ど食べない、1日に1回、2回、3回、1週間に1回、2から3回、4から5回、1ヶ月に1回、2回、3回)を設定した。
(4)目安量
 回答者が1回に実際に摂取する量(目安量)については即席カップ麺とペットボトル飲料、サプリメント以外には質問としては設けなかった。即席カップ麺ではヨウ素はほとんどつゆに含まれるので、つゆを飲む量(全部、半分、1/3)を、ペットボトル飲料、サプリメント類は名称と摂取量を問うた。
 その他の食品についてはヨウ素摂取量の算出時に標準的な目安量を60%と設定した。
(5)食品に含まれるヨウ素量
 各食品に含まれるヨウ素量は原材料的食品である海藻類と魚介類については五訂日本食品成分表に記載された値と(5)、その根拠となった論文を含めて参考とした(8−15)。同成分表では可食部100gに含まれるヨウ素量(μg)が記載されている。また海藻類では湿重量および乾重量あたりのヨウ素量が報告されているものもあるが、味付け海苔と焼き海苔以外は湿重量あたりのヨウ素量を用いた。ところてんとめかぶについてはヨウ素含量のデータがないので、それぞれ寒天とわかめのヨウ素含量と同じ数値を用いた。
 だし・調味料、カップ麺、飲料などの加工食品に含まれるヨウ素量は市販されている食品について我々が測定した値とメーカーから提供された値を用い、次のように計算した。
@回答者が記載した商品のヨウ素含量が判明している場合は、その数値を用いた。
A記載された商品のヨウ素含量が不明の場合あるいは商品名の記載がない場合は我々が測定した値(平均値)を用いた。
(6)ヨウ素の1日摂取量の算出方法
 リストにある食品ごとに、その1回摂取量(1食分)に含まれるヨウ素濃度(表3)を、1日あたりに換算した摂取頻度を乗じ、すべてを合算した。さらにカップ麺以外の各食品については標準的な目安量を60%としてこれを乗じてヨウ素の1日摂取量とした。

2.調査票の妥当性の検討


(1)2005年11月から2006年1月までの3ヶ月間に千葉県船橋市の医療法人成和会山口病院を受診した褥婦のうち、ヨウ素摂取量調査に同意を得られたものに対して、調査票を配布した。分娩後から調査日までの期間に調査票にある食品を日常的に摂取した頻度について記入を求めた。また調味料、だしの素などの商品については、市販されている昆布を多く含んだ既製のだし,調味料などの一覧表を同時に渡して、これを参考に商品名の判る品はその名称の記載を求めた。対照としては同病院職員の健常非妊婦人とした。
(2)調査票への記載と同時に随時尿を採取し−40℃で凍結保存し、尿中ヨウ素濃度は大橋らによるAPDM(ammonium persulfate digestion on microplate)法により(16)、尿中クレアチニン濃度は酵素法によって測定した。


結 果

1.褥婦233名と対照例として健康非妊婦人31名より調査票の回答を得た。
2.褥婦の年齢は20から42歳(平均31歳、標準偏差2.1歳)、対照例は24から70歳(平均45.7歳、標準偏差10.8歳)である。
3.褥婦の産後日数は27から62日、平均34.2日(標準偏差0.2日)である。
4.調査票に加工食品の商品名を記入したのは褥婦233名のうち135名(57.9%)と対照例31名中22例(70.9%)であった。
5.褥婦および対照例の調査票による1日ヨウ素摂取量と尿中ヨウ素濃度を表4に示す。褥婦と対照例の1日ヨウ素摂取量の中央値はほぼ同じで930μg前後であった。尿中ヨウ素濃度の中央値は褥婦が163.9μg/gCre、対照例はこれより高く、209.9μg/gCreであった。
6.対照例において本調査票によって推定したヨウ素摂取量は尿中ヨウ素濃度と統計学的に有意な相関を示した(図1)。Spearman r=0.4069, 95% confidence interval=0.05035 to 0.6714, P value (two-tailed)=0.0231
7.産褥婦人例221例においては本調査票によって推定したヨウ素摂取量は尿中ヨウ素濃度と統計学的に有意な相関はみられなかった(図2)。Spearman r=0.1248, 95% confidence interval=-0.01125 to 0.2563, P value (two-tailed)=0.0640


考 察

 本研究では食事からのヨウ素摂取量を推定するために日本人を対象とした食物摂取頻度調査票を開発した。食品群や栄養素の摂取量を計算する食事調査法にはいくつかあるが(4)、この方法の利点は簡便に調査がおこなえ、個人の習慣的な摂取量を把握するのに適していることである。問題点は対象者の過去の記憶や食品成分表の精度に依存することである。また精度を評価するためには妥当性と再現性を検討する必要がある。今回作成した調査票の妥当性については一日ヨウ素摂取量と尿中ヨウ素濃度との相関を認めたことにより確認された。
 本調査票の作成にあたっては、ヨウ素含量の多い食品を選んだが、原材料的食品では海藻類が、加工食品では既製だし類の摂取量が一日ヨウ素摂取量に大きな影響を与えた。海藻類のヨウ素含量は報告によって異なり(8−15)、例えばコンブは1,200−2,493 μg/g、わかめは22−300 μg/g (1960−93年の報告)であり、さらに調理の方法により、ヨウ素の含有量は変化する。加工食品は製品の成分によって、特に海藻類が含まれるかにより、ヨウ素の含有量は大きく変わってくる。各食品のヨウ素含量をどのように定めるかが、問題点の一つである。
 本調査票の回答者の5−7割は、実際に使用している加工食品の名称を記載したので、ヨウ素含量が既知の品であれば、摂取量を正確に算出することが出来た。しかし、既製だし類などでは料理の種類によって使用量が異なるので、可能であれば、実際の使用量を問うなど、工夫が必要と考えられる。
 調査法の項目に、その他の食品として食品名を記入する欄を設けたが、実際には記入する例が少なく、またヨウ素をほとんど含まない飲料が多かったことから、さほど必要ではないと考えられる。
 本食事調査法は日常のヨウ素摂取量を推測するのに有用と思われる。今後、本調査票をさらに改訂し、再現性についても検討する予定である。


文 献

1. 健康・栄養情報研究会編(2006) 厚生労働省平成15年度国民健康・栄養調査報告、第一出版、東京
2. Leung AM et al. (2007) A dietary iodine questionaire:correlation with urinary iodine and food diaries. Thyroid 17:755-762
3. Rasmussen LB et al. (2001) Evaluation of a semi-quantitative food frequency questionnaire to estimate iodine intake. Eur J Clin Nutr 55:287-292
4. 坪野吉孝他(2006) 栄養疫学、南江堂、東京
5. 食品成分研究調査会編(2006) 五訂増補日本食品成分表、医歯薬出版、東京
6. 国立健康・栄養研究所 栄養疫学プログラム 国民健康・栄養調査プロジェクト(2008) 平成20年度国民健康・栄養調査「栄養摂取状況調査のための標準的図版ツール(試作第2版)に基づく重量目安表(試作版)、国立健康・栄養研究所
7. 中村了次編(2005) 第3版栄養食事療法必携、医歯薬出版、東京
8. McClendon J.F. (1933) Iodine and goiter with especial reference to the far east. Journal of biological chemistry. 102:91-99
9. 桂英輔他(1960) 日本食品中のヨード量、栄養と食糧 12:342-344
10. 桂英輔他(1960) 日本人のヨード摂取量、 栄養と食糧 12:345-347
11. 松浦宏之他(1965) コンブ加工品のヨード含有量について、栄養と食糧 18:120-122
12. Muramatsu Y et al. (1983) Stable iodine contents in human milk related to dietary algae consumption. Hoken Butsuri 18:113-117
13. Katamine S et al. (1986) Iodine content of various meals currently consumed by urban Japanese. J Nutr Sci Vitaminol 32:487-495
14. 山田勇樹他(1986) 日本人のヨード摂取に関する基礎的研究(第1報)わかめヨードの消化吸収、日衛誌 41:817-821
15. 三橋隆夫(1994) 食品中の微量元素について−ヨウ素、兵庫県衛研リポート 13:1-2
16. 大橋俊則(2007) 生体試料中のヨウ素測定、ホルモンと臨床 55:577-586

表1

表2

表3

表4

図1

図2



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