指定課題研究報告
主任研究者 長谷川奉延 (慶應義塾大学医学部小児科学教室) 共同研究者 横谷 進 (国立成育医療センター第一専門診療部) 島津 章 (国立病院機構京都医療センター臨床研究センター) 田中弘之 (岡山済生会総合病院小児科) 和田尚弘 (静岡県立こども病院腎臓内科) 寺本 明 (日本医科大学脳神経外科) 永井敏郎 (獨協医科大学越谷病院小児科) 西 美和 (広島赤十字・原爆病院小児科) 羽ニ生邦彦 (羽ニ生クリニック) 堀川玲子 (国立成育医療センター内分泌代謝科) 藤田敬之助 (大阪市立総合医療センター小児内科) 向井徳男 (旭川医科大学小児科) 伊藤純子 (虎の門病院小児科)
本年度は、成長ホルモン療法の治療効果に及ぼす諸因子の解析並びにアドバース・イベントの調査に関する研究のうち、次の4課題につき報告する。
1. プラダー・ウイリー症候群における重度側弯症の頻度の検討−手術適応患者の頻度は?− (分担:永井敏郎) 2. 腎機能別による慢性腎不全患児の成長ホルモン治療における骨年齢の長期推移 (分担:和田尚弘) 3. 症候性低血糖で成長ホルモン申請されたものの背景、治療効果 (分担:向井徳男) 4. ターナー症候群の体格指数の検討について (分担:伊藤純子・横谷進)
1.プラダー・ウイリー症候群における重度側弯症の頻度の検討−手術適応患者の頻度は?−
「背景」
プラダー・ウイリー症候群(PWS)での側弯症の頻度は50〜80%と高頻度であることが知られている。しかし、手術適応になるほどの重度側弯症の頻度は不明である。
「目的」
Cobb角10度以上とCobb角60度以上の側弯症の頻度を検出し、これらを比較した。
「対象」
当科外来でフォロー中患者126名中、脊柱レントゲン所見が検討されている106名を対象とした。69名が男性、37名が女性で、年齢は1歳から51歳である。84名が欠失型、22名が片親性ダイソミーあるいは刷り込みセンター異常の非欠失型である。
「結果」
39名(39/106, 36.8%)がCobb角10度以上の側弯を示した。年齢別で見ると5歳以下で35.3%、6〜10歳で28.6%、11〜15歳で35.3%、16〜20歳で25%、21歳以上で62%であった。Cobb角60度以上の重度側弯は11名(11/106, 10.3%)に認め、全側弯症患者39名の28.2%(11/39, 28.2%)が重度側弯を示した。
「考察」
Cobb角10度以上の側弯症の頻度が従来の報告頻度に比較して少ない傾向を示した。これは、患者年齢が低年齢であることに起因すると考えられた。この所見を支持する如く、側弯症の頻度は成人になると著明に増加した事実が明らかになった。
重度側弯症の頻度が、全患者の約1割を示し、全側弯症患者の約3割が重症化したことは今後、装具装着、手術適応など慎重なフォローが必要である
「結語」
PWS患者では、側弯症頻度は高く、かつ重症化するリスクも高いことが判明した。今後、成長ホルモン治療などに際しても慎重な観察が不可欠と思われる。
2.腎機能別による慢性腎不全患児の成長ホルモン治療における骨年齢の長期推移
「はじめに」
前年度、本邦の特徴である長期慢性腎不全患児において、骨年齢(BA)と暦年齢(CA)の差の長期的推移を検討した。今回は、慢性腎不全でも末期腎不全と保存期腎不全により成長ホルモンの有効性が異なるように、腎機能により骨年齢の進行度が長期的に異なるのかを検討した。
「対象」
慢性腎不全によるGH治療のため成長科学協会に登録され、2年以上骨年齢の継続データの記載があり、クレアチニンクリアランス(Ccr)が測定されている慢性腎不全患児107名。Ccrが9ml/min/1,73m²以下は51名、10-24 ml/min/1,73m²は31名, 25 ml/min/1,73m²以上は25名であった。
「結果」
Ccr 9ml/min/1,73m²以下の群の骨年齢(BA)は8.6±4.0歳で、暦年齢と骨年齢の差(CA-BA)の平均は2.2±1.5であった。治療開始1年後のCA-BAは2.4±1.4、2年後CA-BAは2.8±1.4、3年後のCA-BAは3.4±2.0であった。
Ccr 10-24ml/min/1,73m²の群の骨年齢(BA)は7.1±3.8歳で、暦年齢と骨年齢の差(CA-BA)の平均は1.8±1.5。治療開始1年後のCA-BAは1.8±1.8、2年後CA-BAは2.1±1.7、3年後のCA-BAは3.0±2.3であった。
Ccr 25ml/min/1,73m²以上の群の骨年齢(BA)は7.3±3.8歳で、暦年齢と骨年齢の差(CA-BA)の平均は2.0±1.0。治療開始1年後のCA-BAは2.1±1.5、2年後CA-BAは2.1±1.2、3年後のCA-BAは2.3±1.0であった。
「考察」
透析期であるCcr 9ml/min/1,73m²において、CA-BAは治療開始後1年目から遅延し、経年的にその差は増加した。一方、Ccr 25ml/min/1,73m²以上の比較的腎機能が保たれている保存期腎不全の群ではCA-BAは約2年で治療3年後まで安定していた。Ccr 10-24ml/min/1,73m²の群は、多くが1-2年で透析導入が必要な腎機能低下に陥ることが多く、CA-BAも2‐3年後よりCcr 9ml/min/1,73m²群と同様にその差が増加した。以上より、腎機能低下がより重症となり透析を必要とする時期では、成長ホルモン治療後も骨年齢は遅延する傾向にあると考えられた。
成長ホルモン治療申請書の項目「症候性低血糖」が「あり」とされていた申請者数は男540名、女345名の計885名であったが、このうちピークGH≦10ng/mlのものは男353名、女240名、計593名であった。この593名について解析した結果、在胎週数平均39.0週(26-43週)、出生体重平均2843g(560-4300g)であった。患者背景としての記載は、複合型下垂体ホルモン欠損症、下垂体病変、中枢神経病変、脳腫瘍治療後、白血病治療後、糖原病、てんかん、染色体異常などであった。
3.症候性低血糖で成長ホルモン申請されたものの背景、治療効果
この593名の中から申請時の年齢が3歳未満97例に限定して解析した。申請時の年齢は平均1歳6か月で、0歳が29名(男16名、女13名)、1歳が37名(男13名、女24名)、2歳が31名(男16名、女15名)であった。
分娩胎位は頭位67例、骨盤位9例で、帝王切開(理由は不明)20例、不明1例であった。新生児仮死の合併が19例にあった。染色体検査は24例で施行され、1例のみ18q-の異常が報告されている。申請者背景として複合型下垂体ホルモン欠損症、汎下垂体機能低下症、下垂体前葉欠損、下垂体茎断裂、下垂体低形成などの記載が合わせて41例(0歳16例、1歳14例、2歳11例)に認められた。申請時の平均身長SDスコア、平均在胎週数、平均出生体重、平均出生身長、平均IGF-1値は以下の表に示す通りであった。今後は6か月未満の出生早期に低血糖を呈した症例や、ピークGHがより低値(≦5ng/ml)の症例に限定した場合の申請者抽出を行って比較解析を行い、その背景について調査していきたいと考えている。
日本において、ターナー症候群の成長ホルモン開始時年齢や体格指数の年代による推移に関する研究を行った。結果は、文献1(PDF)に報告した。
4.ターナー症候群の体格指数の検討について
「背景」
・ TS女児に対するGH治療は、標準治療である。 ・ TS女児に対するGH治療の早期治療は、早期の成長や年齢相応の性腺補充療法を可能にするとされている。 ・ 低身長が明らかになる5歳までに、GH治療を開始するのが望ましいと考えられている。 ・ TS女児に対するGH治療の早期化について大きなコホートでの日本の動向を示した報告は存在しない。
「対象」
「方法」
・ 登録年により1991-1994年、1995-1999年、2000-2004年の3つの時代に分類して検討した。 ・ 身長SDSは、文献2を、TS特異的身長はSDSは、文献3を、BMI SDSは、文献4を用いて算出した。 ・ 連続変数の検定には、分散分析またはt検定、カテゴリー変数の検定には、χ2検定を行い、有意水準は5%とし、多重検定の調節はBonferroni法を用いた。
「結果」
「考案」
・ GH治療の開始年齢(ここで調べたのはGH治療登録年齢ではあるが)は、年代とともに、GH治療開始年齢の目標に近づいている 。(表3) ・ 日本におけるGH治療開始年齢や治療開始時身長SDSは、海外と同程度であった。(表4) ・ 開始時の身長SDSの平均は、一番新しい年代でも、-3.17と成長障害の程度は強い。 (表3) ・ GH開始年齢と身長SDSの相関関係 (図1)から、本コホートのTS女児の多くは、低身長の程度が明らかになってから診断されていると考えられた。 ・ GH開始年齢とTS特異的身長SDSの相関関係(図2)から、本コホートのTS女児は、低年齢ではTSの中の低身長の人が多く診断され、高年齢では成長障害が進んでから診断されていることが示唆された。 ・ 45,Xとそれ以外で、全ての要因で有意差が無かった(表2)。海外の報告では、45,Xの方が表現型が明らかな事が多いため早く診断されるとされる。この理由の1つとして、本コホートのTSの診断は主に低身長から疑われているのではないかと推定した。
「結論」
・ 日本のTS女児に対するGH治療は、年代とともに早期化し、開始時の成長障害の程度も改善している。 ・ 最近のデータでも、GH開始時の成長障害の程度は強かった。本コホートには診断年齢は含まれていない。しかしながら、GH開始時の成長障害の程度の大きさを考えると、低身長からTSと診断されている人が多いのではないかと考えた。低身長だけでなく、それ以外の表現型にも注意して早期診断の努力は必要である。
「文献」
1. Isojima T、 Yokoya S、 Ito J、 Horikawa R、 Tanaka T. Trends in age and anthropometric data at start of growth hormone treatment for girls with Turner syndrome in Japan. Endocr J 2008; 55:1065-70(PDF) 2. Suwa S、 Tachibana K. Standard growth charts for height and weight of Japanese children from birth to 17 years based on a cross-sectional survey of national data. .Clin Pediatr Endocrinol 1993; 2:87-97 3. Suwa S. Standards for growth and growth velocity in Turner’s syndrome. Acta Paediatr Jpn 1992; 34:206-21 4. Inokuchi M、 Hasegawa T、 Anzo M. Matsuo N. Standardized centile curves of body mass index for Japanese children and adolescents based on the 1978-1981 national survey data. Ann Hum Biol 2006; 33: 444-53 5. Ranke MB、 Lindberg A、 Longas AF、 Darendellier F、 Albertsson-Wikland K、 Dunger D、 et al. Major determinants of height development in Turner syndrome (TS) patients treated with GH: analysis of 987 patients from KIGS. Pediatr Res 2007; 67: 105-10 6. Betts PR、 Butler GE、 Donaldson MDC、 Dunger DB、 Johonston DI、 Kelnar CJH、 et al. A decade of growth hormone treatment in girls with Turner syndrome in the UK. Arch Dis Child 1999; 80: 221-5 7. Massa G、 Heinrichs C、 Verlinde S、 Thomas M、 Bourguignon JP、 Craen M、 et al. J Clin Endocrinol Metab 2003; 88: 4168-74 8. Massa G、 Verlinde F、 De Schepper J、 Thomas M、 Bourguignon JP、 Craen M、 et al. Trends in age at diagnosis of Turner syndrome. Arch Dis Child 2005; 90:267-68 9. Parker KL、 Wyatt DT、 Blethen SL、 Baptista JB、 Price L. Screening girls with Turner syndrome:The national cooperative growth study experience. J Pediatr 2003; 143: 133-5 10. Soriano-Guillen L、 Coste J、 Ecosse E、 Leger J、 Tauber M、 Cabrol S、 et al. Adult height and pubertal growth in Turner syndrome after treatment with recombinant growth hormone. J Clin Endocrinol Metab 2005; 90: 5197-204