指定課題研究報告
ヨード摂取と甲状腺機能(学童・妊婦・出生児)に関する臨床的研究


ヨード摂取と甲状腺機能に関する臨床的研究(特に妊婦と新生児の甲状腺機能について)
第1報 一般に市販されている加工食品、調味料などに含まれるヨード量について
(中間報告)
主任研究者 布施養善(東邦大学医学部新生学教室)
 山口 曉医療法人成和会山口病院)
 荒田尚子(国立成育医療センター成人期診療科)
 原田正平(国立成育医療センター成人期診療科)
 布施養慈(帝京大学医学部産婦人科学教室)



 本年度(平成18年度)の研究は平成16-17年度に引き続いて標記の課題についておこなった。研究経過と今後の予定は下記に示すが、中間報告として一般に市販されている加工食品、調味料などに含まれるヨード量について測定した結果を報告する。


研究の背景

 ヨードは甲状腺ホルモンの合成に必須であり、その欠乏および過剰は甲状腺機能異常を主としたさまざまな病態を引き起こす。わが国では古来より海藻類、魚類を多く摂取する習慣から、ヨード欠乏症は存在しないと考えられ、むしろ過剰と指摘されることもある。しかし、わが国のヨード摂取状況についての全国的なデータは現在、ほとんどない。
 近年、食事習慣の変化に伴いヨードを多量に含む食品、特に調味料、レトルト食品などが大量に消費されており、ヨードが多く摂取されている可能性があるが、実態は明らかではない。妊娠末期にヨードを多量に含む食品を摂取することにより、新生児に高TSH血症がみられたとする報告がある。またヨード含有油性造影剤による子宮卵管造影(HSG)は不妊症治療において一般的に行われているが、HSG施行後に妊娠した女性から出生した胎児・新生児に甲状腺機能異常症を示す症例が報告されている。妊産婦におけるヨード代謝について、またヨードの過剰摂取が妊産婦と胎児・新生児の甲状腺機能にどのような影響があるのかは不明である。


研究目的

1)日本人の妊産婦のヨード代謝と甲状腺機能との関連を明らかにする。
2)母体のヨード摂取と新生児の甲状腺機能との関連を明らかにする。
3)HSG施行後のヨード含有造影剤の非妊時、妊娠時の代謝過程を明らかにする。


研究の途中経過

 上記1)、2)については甲状腺疾患合併のない健常妊産婦約950例とその出生児を対象に横断的研究においては、妊婦第1、第2、第3三半期および分娩後1ヶ月 において血中TSH,FT3,FT4,Tg濃度を測定した。縦断的研究においては同一妊産婦を対象に、上記の時期に上記の項目を測定した。当院出生の新生児において先天代謝異常マス・スクリーニングによって早期新生児期のTSH濃度を測定した。
 上記3)については予備研究としてHSG後ヨード消失率を明らかにする前向き研究をおこない、またHSG施行後に妊娠が成立した症例の収集をおこなっている。


今後の予定

 対象症例において随時尿を同時期に採取し、凍結保存している。また17年度本研究において作成した質問紙によって妊産婦の食事中のヨード摂取量調査を行った。今後、研究計画に従って、この検体において尿中ヨード濃度を測定し、ヨード摂取量を算出し、上記の測定結果を総合して、結論を導く予定である。



第1報 一般に市販されている加工食品、調味料などに含まれるヨード量について




背景と目的
 人体に摂取されるヨードの大部分は食品に含まれるものによる。日本食品成分表に掲載されている原材料的食品のうちヨード濃度が記載されているものは13種類、42品目である(1)。加工食品では非常に多くの種類の食品に原材料の他にヨードを含む種々の調味料、食用色素、風味材料(昆布エキスなど)などが加えられており、その詳細については一般消費者には明らかにされていないものが多い。本研究の目的は、原材料的食品以外の一般に市販されている加工食品中のヨード含有量を明らかにすることである。

材料と方法
 全国的に市販されていて入手が容易な加工食品のうちで、成分に海藻類(エキスも含む)が含まれていると記載されている品を選んだ。その種類は即席カップ麺、即席味噌汁・スープ・お吸い物、調味料(だしの素、つゆの素、ぽん酢、塩、醤油)などである。その他にこのような記載はないが、同種類の品および清涼飲料水、ミネラルウオーター、お茶なども対象とした。食品試料は次のような方法で前処理をおこなった。具が別になっている即席味噌汁、乾燥スープ、即席カップ麺は具を全量、ホモジェナイザーで粉砕して、粉末スープとともにメーカーの指示量の水を加え、15分加熱後、3500rpm、10分で遠心分離し、上清を採取した。粉末状の材料、液体の材料は全量を秤量し、その一部を分析した。試料中のヨード含量はAPDM(ammonium persulfate digestion on microplate)法を用い、次のような方法で測定した(2)。この方法の測定感度は1.39μg/dlであり、測定内誤差4.8-5.9%、測定間誤差は15%以下である。
1.粉末検体操作法
@100mg秤量、A20%塩素酸1mlを加えて90℃、2時間消化する。消化した液を水で10倍希釈する(希釈液Aとする)、Bマイクロプレート上に0.05mlを採取し、20%塩素酸100μLを加え密封下、105℃ 90分消化後、測定、C測定範囲を超えた検体については、希釈液Aを水で更に希釈後、工程Bの操作により測定。
2.液状検体操作法
@水で検体を10倍希釈する(希釈液A)、Aマイクロプレート上に希釈液A 50μLを採取し、20%塩素酸100μLを加え密封下、105℃で90分消化後、測定、C測定範囲を超えた検体については、希釈液Aを水で更に希釈後、工程Aの操作により測定。
 食品試料中のヨード含有量は固形のものは(μg/g)、液体のものは(μg/L)で表した。メーカーの指定した方法で調理した場合の1食分(1回量)に含まれるヨード含有量を算出した。

結果
 食品中に含まれるヨード量を表1−7に示す。商品名あるいは成分表示に昆布、わかめのような記載がある食品には*印をつけた。
1.調味料
 醤油はすべて昆布が含まれる品であるが、ヨード含量は1.2-101.1μg/mlと100倍近くの差があった。ぽん酢は商品名に昆布の記載のある品はヨードが多く含まれていた。昆布塩は最もヨード含量の多いものは788.5μg/gであり、昆布の含まれていない塩は2μg/g以下であった(表1)。
2.即席カップ麺、乾燥スープ、即席みそ汁
 いずれも具も含めて1食分に含まれるヨード量を測定した。即席カップ麺は具あるいは粉末スープにわかめや粉末昆布を含む3品目のヨード含量が多く、特に2品目は616,7および406.6μgのヨードを含んでいた。乾燥スープはすべて昆布が含まれる品であるが、ヨード含量は4.4-5108.7μg/mlと大きな差があった(表2)。即席みそ汁はすべてわかめや昆布を含んでいるが、ヨード含量は8.6-335.8μg/mlと差があった(表3)。
3.清涼飲料水、お茶など
 ボトル1本あるいは1杯に含まれるヨード量を測定した。こんぶ茶、2品目は576.3および296.4μgのヨードを含んでいた。清涼飲料水(ミネラルウオーター、お茶など)はすべて成分に昆布などの記載はないが、1品目で49.0μgのヨードを含んでいた(表4)。
4.よせ鍋つゆ、めんつゆ
 よせ鍋つゆは1食分に、濃縮めんつゆは希釈して100mlに含まれるヨード量を算出した。よせ鍋つゆはすべて昆布が含まれる品であるが、ヨード含量は131.2-5457.3μgと大きな幅があり、商品名に昆布が記載されている3品目は特にヨードを多く含んでいた。めんつゆは成分に海藻の記載のない品が1949.9μg/100mlと最も多くヨードを含んでいた。記載のある他の7品目のヨード含量は72.1-1122.6μg/100mlであった(表5)。
5.だしの素
 だしの素のうち、顆粒、粉末あるいはテーパック状の品について、味噌汁、お吸い物/すまし汁、麺のかけつゆ、煮物のだし/つゆの4種類の料理を調整した場合、1食分に含まれるヨード量を算出した。品目によりヨード含量は数千倍にも及ぶ著しい差があった(表6)。
6.だし汁、おでん、うどんだし
 希釈あるいはそのまま使用する液体のだしは100mlに含まれるヨード量を測定した。1品目は34700μg/100mlと非常に高い値を示したが、他の34品目のヨード量は21.4-5297.7μg/100mlであった(表7)。

考察
 本研究は一般に市販されている加工食品中に含まれるヨード含有量を明らかにしたものである。食品中のヨード含量については西山らの最近の報告(3)があるが、本研究では原料に原材料として最もヨード含量の高い昆布、わかめなどの海藻類あるいは風味原料として昆布エキスなどを含むことが記載されており、かつ全国的に販売され、容易に入手できる調味料、加工食品を主に選んだ。一般に昆布、わかめなどの海藻名が商品名に含まれるか、あるいは成分に記載されている品はヨード含量が高いが、その値にはかなりの差が認められた。また記載のない食品においてもヨードが多く含まれる品もあり、おそらく「風味原料」にヨードが含まれていることが推測される。
 日本人のヨードの食事摂取基準(4)は年齢によって推定平均必要量(Estimated Average Requirement, EAR)、目安量(Recommended Dietary Allowance, RDA)、推奨量(Adequate Intake, AI)、上限量(Tolerable Upper Intake Level, UL)の基準値が定められ、妊産婦、授乳婦ではEARとAIの付加量が示されている(表8)。しかしながら、これらの数値はすべて日本人のデータを基にしたものではない。推定平均必要量は健康人の半数において必要量を満たすと推定される1日の摂取量で、特異的な指標や標準で定義される。目安量はほとんどすべての健康人において栄養素必要量を充分に満たす平均の1日摂取量である。推奨量は健康人のグループにおいて観察された平均摂取量を近似するか、実験的に得られた数値を基にしている。上限量はほとんどすべての健康人において健康を害する危険がないとみなされる1日の栄養素摂取量の最高値である。これらの指標は年齢、性別ごとに定められている。成人ではヨードの必要量は95μg/日、推奨量は150μg/日、上限量は3000μg/日である。
 今回の食品中のヨード含量測定結果から、1回の摂取でこれらの基準値を越える量のヨードを含む食品があることが明らかになった。特に、即席食品(麺、スープ、みそ汁)、だし汁、めんつゆなどの食品の一部には多量のヨードが含まれる。だし汁、だしの素、めんつゆなどは使用方法によって実際のヨード摂取量は多少、変わることはあり得る。
 現在の日本人のヨード摂取量についての全国的調査結果はないが、藻類についての摂取量は過去50年、大きな変化はない(5)。しかし近年、加工食品、レトルト食品、サプリメントなど、多くの食品にヨードが含まれ、これらの食品を多く消費することにより、原材料的食品に含まれているヨード量(表8)に加えて、自覚せずに日常的にヨードを多量に摂取している可能性がある。またヨードは食物のみでなく、うがい薬、感冒薬などの大衆薬、また消毒薬、造影剤などの医薬品にも多く含まれており、家庭内、医療機関内で大量に使用されていることから、食品以外あるいは非経口によるヨード過剰摂取の甲状腺機能に対する影響も推測される。
 今後はこれらの結果を基に食事調査、尿中ヨード濃度測定などによって、ヨードの摂取状況とその影響をさらに詳細に検討する予定である。


文献

1.  食品成分研究調査会編:五訂増補日本食品成分表,2006,医歯薬出版,東京 
2.  Ohashi, T., et al.(2000) Simple microplate method for determination of urinary iodine. Clinical Chemistry, 46, 529-536. 
3.  西山宗六他 (2003) クレチン症周辺疾患と食品のヨード汚染 ホルモンと臨床 51:959-966 
4.  厚生労働省:厚生労働省策定日本人の食事摂取基準(2005年版)p189-193 第一出版 東京 2005 
5.  健康・栄養情報研究会編:厚生労働省平成15年度国民健康・栄養調査報告 第一出版 東京 2006 



表1.調味料に含まれるヨードの量

表2.即席カップ麺、乾燥スープに含まれるヨードの量

表3.即席みそ汁に含まれるヨードの量

表4.清涼飲料水、お茶に含まれるヨードの量

表5 よせ鍋つゆ、めんつゆに含まれるヨードの量

表6 だしの素(顆粒、粉末、パック)を用いて調製した料理に含まれるヨードの量

表7 液体だし汁、おでん・うどんだし(希釈用)に含まれるヨードの量

表8.日本人のヨウ素の食事摂取基準

表9.原材料的食品中のヨウ素含有量



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