指定課題研究報告
成長ホルモン治療によるアドバース・イベントの調査研究
主任研究者 田中 弘之 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科) 和田 尚弘 (静岡県立こども病院腎臓内科) 西 美和 (広島赤十字・原爆病院小児科) 齋藤 友博 (国立成育医療センター研究所成育社会医学研究部) 佐藤 真理 (東邦大学医療センター大森病院小児科) 寺本 明 (日本医科大学脳神経外科) 永井 敏郎 (獨協医科大学越谷病院小児科) 横谷 進 (虎の門病院小児科)
成長ホルモン治療に関するアドバース・イベント(AE)について、以下の研究を行った。なお、永井によるPrader-Willi症候群におけるGH治療と側弯に関する検討結果を別添として加える。
1. 治療成績報告書に記載されたAE情報の抽出 成長ホルモン分泌不全性低身長症、ターナー症候群、軟骨異栄養症、慢性腎不全、プラダー・ウイリー症候群のAE(分担:西、田中、和田、永井、横谷、佐藤) 2. 文献からのAE情報の集積(分担:西、寺本)
1.治療成績報告書に記載されたAE情報の抽出
なお、GHDの治療積積報告書には具体的な有害事象名が記載されていないものも数件見受けられた。
GHDの本年度のAEの特徴として側弯の頻度が男女3名ずつに見られ女子では13.9±3.7歳、男子では15.4±1.5歳であり、健常者における発症年齢と同様であった。GHによって促進された身長増加の結果生じやすくなっているものと考えられるが、今後検討する必要がある。
このほか軟骨異栄養症で3例、PWSで2例の有害事象が報告されたがGH治療との因果関係は否定的であった。
慢性腎不全における低身長に対するGH治療のAE(和田尚弘)
今年度2005年12月1日より2006年11月30日までに提出された報告書は、新規4例、継続8例であった。
新規4例全例適応となった。1名が保存期腎不全、3名が腹膜透析例であった。
継続での報告8例中、継続可能6例、継続不可0例、継続希望なしが2例であった。
継続希望なしの2例は、1例が本人・家族の希望で有害事象に伴うものではなかった。もう1例は記載がなく不明である。
継続可能6例中、1例(受付番号344)でPDカテーテル出口部感染が見られ、以前の登録データでも1例見られたが(受付番号90)、PD療法中のPDカテーテル出口部感染は稀ではなく成長ホルモンとの因果関係は無しと考える。同一患者(受付番号90)で臀部皮下膿瘍がみられたが、13歳で成長ホルモン注射を臀部に施行している可能性はほとんどないため、注射との因果関係は無いと思われる。
1例(受付番号260)でCAPD腹膜炎、シャント閉塞が報告されたが、PD療法の合併症として常に起きる可能性ある合併症であり、成長ホルモンとの因果関係は無いと考える。
以上より、副作用報告として2名追加され、登録数358名中35名に副作用報告があったが、今年度の2例の副作用報告はいずれも成長ホルモンとの因果関係は無いと思われる。
2.文献からのAE情報の集積
2006年文献からの脳腫瘍と成長ホルモンに関する情報 (寺本)
2006年に新たに加わった脳腫瘍と成長ホルモン治療に関する文献は以下の二報であった。
1. Karavitaki N, Warner JT, Marland A, et al.: GH replacement does not increase the risk of recurrence in patients with craniopharyngioma. Clin Endocrinol (Oxf). 2006;64(5):556-60.〔UK〕
![]()
2. Andreas J, Annice M, Paul AH, et al.: Adult growth hormone replacement therapy and neuroimaging surveillance in brain tumour survivors. Clin Endocrinol 2005;62:698-705.〔UK〕
![]()
(別添)
Prader-Willi症候群において、成長ホルモン療法が側弯症に与える影響について
−全国アンケート調査による検討−
永井敏郎#1、 馬場一徳#2、#3、加治正行#2、#4 #1:獨協医科大学越谷病院小児科、#2:静岡県立こども病院内分泌代謝科 #3:独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センター小児科 #4:静岡市保健福祉局保健衛生部
はじめに
Prader-Willi症候群(PWS)は約60〜80%に原因不明の側弯症を認めると報告されているが、本邦での報告はない。さらに、GH治療と側弯の関連が危惧されている。わが国では2002年4月より、-2.0SD以下の低身長を伴うPWS患児に対する、GH療法が保険適用となった。PWSに対するGH療法の効果として、成長率の改善、体脂肪量の減少、筋量の増加、Quality of lifeの改善といった有益な効果が報告されている3)-が、本症におけるGH療法と側弯症の関係について検討した報告は無い。今回我々は、全国アンケート調査により、両者の関係について検討したので報告する。
方法
全国51施設に郵送によるアンケート調査を行い、各施設のPWS患児について(1)全症例数、(2)GH療法を行っている(行った)数、(3)GH療法を行っている(行った)児のうち側弯症を認めた症例数、(4)GH療法を行っていない児のうち側弯症を認めた症例数、を集計した。なお、今回の検討ではCobb角10°以上を側弯症とした。
GH療法実施例で側弯症が認められた児では、(1)GH療法開始後に側弯症が出現あるいは増悪した群(以下、増悪群と略)と、(2)GH療法開始以前から側弯症があり、GH療法中には側弯の増悪を認めなかった、あるいは改善した群およびGH療法前後で側弯症の認められなかった群(以下、不変・改善群)に分類し、GH開始時身長SDスコア、GH開始年齢、GH療法初年度の成長率について比較検討した。有意差検定にはWilcoxonの順位和検定を用いた。
結果
51施設中、31施設から有効回答が得られた。274名(男146名、女128名)のPWS患児のうち、103名(38%、男56名、女47名)にGH療法が行われていた。GH療法を行っていない児で側弯症を認めたのは10名(3.6%、男2名、女8名)、GH療法実施例で側弯症を認めたのは24名(23%、男12名、女12名)であった(表1)。
GH療法中、あるいはGH療法後に側弯症が認められた24名のうち、7名はGH療法開始後に側弯症が発見された例であった。17名はGH療法開始前から側弯症を認めており、うち9名でGH療法中に側弯症の増悪を認め、8名では改善あるいは変化を認めなかった。
側弯症増悪群と、不変・改善群の間で、GH療法開始時の身長SDスコア、GH開始年齢、GH療法初年度の成長率のいずれにも有意差は認められなかった(表2)。
考察
PWSにおける側弯症の合併率は60〜80%と高く、その原因として、筋緊張低下、関節の弛緩性、肥満など様々な要因が複合しているものと推測されている。一方、GH分泌不全症やTurner症候群においては、GH療法実施例での側弯症の合併頻度は約0.05〜0.1%と、一般人口における側弯症の合併頻度と有意差はないとされている。
PWSに対するGH療法と側弯症の因果関係については、否定的な報告が多い。Haqqらは、GH療法による側弯症の悪化は認められなかったと報告し3)、また、Carrelらは、GH投与量を増減させても側弯症の悪化は認められなかったと報告している4)。しかし、これらはいずれもGH療法開始前から側弯症を認めていた症例の報告であり、もともと側弯症のなかった例に対してGH療法を行い、側弯症が出現したという報告はこれまでされていない。
今回のアンケート調査では、GH療法を受けたPWS児の23%に側弯症を認めたが、側弯症の発見年齢、GH療法の継続年数、側弯症の程度に特徴的な所見は認められなかった。また、側弯症増悪群と不変・改善群との間で、GH療法開始時の身長SDスコア、開始年齢、初年度成長率に有意な差は認められなかった。
今回の検討では、GH療法開始後に側弯症が発見された例の中に、実際にはGH療法開始前から側弯症があった例も含まれている可能性があること、GH療法以外の側弯症増悪因子について検討していないことから、GH療法が直接側弯症を誘発、あるいは増悪する因子になるかどうかは不明であるが、側弯症の合併率がかなり高いことを考慮すると、PWS患児に対してGH療法を行う際には、GH投与開始前、GH投与中に定期的に側弯症の検査を行う必要があると考えられた。