指定課題研究報告
成人成長ホルモン欠乏症患者の転帰及び診断・治療に関する研究



成人成長ホルモン分泌不全症患者における代謝指標に関する研究
清水 力(北海道大学病院検査・輸血部)
松野一彦(北海道大学病院検査・輸血部)
小池隆夫(北海道大学大学院医学研究科病態内科学講座第二内科)




【目的】

 成人成長ホルモン分泌不全患者(AGHD)においては体組成の異常、代謝障害・心血管系疾患リスクの増大および生活の質の低下が指摘されている。わが国において2006年4月よりAGHDに対する成長ホルモン補充療法が認められ、その適応患者に対する治療が拡大しつつある。今回、我々は、AGHDに対するGH補充療法の臨床的有用性を検討する基礎資料として、AGHDにおける代謝指標について解析したので報告する。


【対象と方法】

 対象は2005年4月から2006年8月まで北海道大学病院第二内科に入院したクッシング病ならびに先端巨大症を除く下垂体機能低下症患者のうち、下垂体機能評価目的にインスリン低血糖試験を施行し、GH分泌評価が可能であった29例(非機能性下垂体腫瘍10例、頭蓋咽頭腫5例、胚芽腫5例、ラトケのう胞4例、プロラクチノーマ3例、リンパ球性下垂体炎1例、silent corticotroph adenoma1例)である。有効低血糖刺激を、前値血糖値の50 %以下あるいは50 mg/dl以下になった場合とし、AGHDの定義をGH頂値が3 ng/ml以下とした。ついでAGHD群と非AGHD群に分類し、年齢、罹病機関、BMI、ウェスト周囲径、収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、IGF-1に関して比較した。


【結果】

 20例がAGHDと診断され(うち男性10例)、そのうち19例でGH頂値が1.8ng/ml以下であった。非AGHD例は9例(うち男性5例)であった。AGHDと非AGHDとの比較では、年齢(53.0±3.1歳v.s. 46.4±7.1歳)と罹病期間(5.9±1.5年v.s. 6.9±2.7年)には有意な差は認めなかったが、IGF-1は95.1±10.0 ng/mL v.s. 145.4±23.6 ng/mL, p<0.05と有意にAGHD群が低値を示した。BMI(24.1±0.67 kg/m2 v.s. 21.5±0.89 kg/m2, p<0.02)、ウェスト周囲径(86.2±1.8 cm v.s. 72.3±1.9 cm, p<0.01)ともにAGHD群が有意に高値を示したが、収縮期血圧(115.9 mmHg ±3.0 v.s. 110.4±4.5 mmHg)、拡張期血圧(71.5±2.0 mmHg v.s. 67.8±3.2 mmHg)、空腹時血糖(89.4±2.5 mg/dL v.s. 97.9±11.7 mg/dL)には有意な差を認めなかった。また、脂質関連では、総コレステロール(223.4±11.9 mg/dL v.s. 186.2±8.7 mg/dL p<0.01)、中性脂肪(169.5±20.0 mg/dL v.s. 114.0±26.3 mg/dL, p=0.055)、LDLコレステロール(137.6±9.8 mg/dL v.s. 101.9±9.8mg/dL, p<0.01)ともにAGHD群が有意に高値あるいはその傾向にある結果が得られた。HDLコレステロールは逆に56.9±3.6 mg/dL v.s. 71.6±7.6 mg/dL, p=0.53とAGHD群が低値を示す傾向にあった。


【まとめ】

 今回の結果は従来からの報告にほぼ合致するものであった。GH補充療法対象者に関しては順次GH補充療法の導入を試みているが、本治療が自己注射によること、いまだ患者を十分に説得できる臨床的有用性を示せないことが導入を困難にしている。今後、GH補充療法導入患者を長期間観察することにより、本治療のより明確な臨床的有用性を示したいと考えている。

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