指定課題研究報告
成人成長ホルモン欠乏症患者の転帰及び診断・治療に関する研究



重症成人成長ホルモン分泌不全症患者の治療成績
高野幸路(東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科)



 (背景)重症成人成長ホルモン分泌不全症患者の治療が保険適応になって一年近くが経過する。これまでに報告された治験成績をみても体組成の正常化、脂質代謝プロファイルの改善、虚血性心血管疾患のリスクファクターの軽減などが達成されている。諸外国の成績をみても体組成の正常化、脂質代謝プロファイルの改善、虚血性心血管疾患のリスクファクター軽減のほかに骨密度の増加に加え、心血管疾患による死亡率の増加の正常化などが示されている。それらに加え、諸外国の報告では心理社会的なQOLの有意な改善が患者の調査でも、患者家族の調査でも示されており、その有用性が明らかになっている。しかしながら、日本のこれまでの治験成績では、はっきりした心理社会的なQOLの改善を示すことができなかった。これは、日本人ではこれらのQOLの改善が見込めないのか、それともQOLの改善が認められるものの諸外国で用いているQOL調査票ではその改善を拾い上げることができないのかの可能性がある。報告者の外来で経験した18名の重症成人成長ホルモン分泌不全症患者のインタビューでは、少なくとも半分以上の患者で明らかな心理社会的なQOLの改善が報告された。なかでも、改善の明らかな6例では著名な改善が認められた。この経験から、日本の治験成績では本来起こっているQOLの改善を拾い上げることができなかった可能性が高いと考えた。現在の重症成人成長ホルモン分泌不全症患者の治療における最も重要な問題のひとつがこの問題であると考え、治療による心理社会的なQOLの有意な改善を明らかにすることを本研究の中心の目的とした。そこで、神戸大学内分泌グループと天理よろず病院のグループを中心に日本人の下垂体疾患のQOLの変化を特異的に捉えるために開発されている質問表である、下垂体機能低下質問表(JAHQ)を用いたQOL調査を予定しているが、現在まだ利用可能でない。したがって、JAHQ開発に対する参加、それを用いたQOL調査を2年度めからの予定とし、初年度はこれらの研究の対象となる東京大学内分泌外来の重症成人成長ホルモン分泌不全症患者の治療成績をQOL以外の面で解析し、QOL以外について適切な治療成果が得られている対象群であることの評価を行った。

 (対象)東京大学医学部腎臓・内分泌内科外来に通院し、重症成人成長ホルモン分泌不全症患者の診断基準を満たし、成長ホルモン補充療法を48週以上受けた患者にインフォームドコンセントを得て血液生化学データ、体脂肪率、骨密度、脈派速度などの測定を行い、治療前後を比較した。18名の外来治療中の患者のうち、これに該当する患者は12名(男性7名女性5名)であった。倫理委員会の許可をえて解析した。

 (方法)体脂肪率は全身のDPXIQによるtotal body scanで測定し、脈派速度はコーリン社製の脈派速度測定器を用いた。

 (結果)GH補充前後で有意に変化があった指標は、体幹の脂肪量治療前8176 ± 2457g から治療後 7105 ± 2707 g と低下し、総脂肪量が治療前 15026 ± 4434 gから 治療後13443 ± 4335 gに低下し 体幹脂肪割合が 治療前29.86 ± 7.185 % から治療後 25.57 ± 7.203 %に低下した。これ以外の指標については肝機能、脂質プロファイル、骨密度、ABI、脈派速度のいずれも有意な変化を示さなかった。

 (考察)以上の結果から、東京大学内分泌外来で治療中の重症成人成長ホルモン分泌不全症患者においては、治療により体組成の内、体幹脂肪と総脂肪が減少し、総脂肪に対する体幹脂肪量も低下したと考えられた。他の、指標については、特にLDLコレステロールで低下傾向、HDL コレステロールについて増加傾向が認められ、症例数を増せば有意差が出る可能性が示唆された。以上のことからこれらの患者群は体組成においては十分な治療成果が得られている群であることが示された。今後2年度目からは、症例数を増し、他の診療機関と共同研究を行いJAHQを用いた心理社会的QOLの評価を行う予定である。


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