指定課題研究報告
成人成長ホルモン欠乏症患者の転帰及び診断、治療に関する研究
宮下 洋 (東邦大学医学部付属佐倉病院内科) 白井厚治 (東邦大学医学部付属佐倉病院内科)
近年、同一個体に動脈硬化危険因子が集積し、その結果冠動脈疾患のハイリスク群となる病態をメタボリック症候群と呼び、その病態機構の解明が急がれている。メタボリック症候群の増悪要因としては肥満、特に内臓脂肪蓄積があげられている。我々は、GHが直接的に内臓脂肪に作用し、その分解を特異的に促進すること(1)、さらに成人GH欠損症では動脈硬化性疾患の頻度が高いこと(2)を報告した。これらの結果は、GH分泌不全が内臓脂肪蓄積と関係があり、メタボリック症候群の発症要因のひとつであることを示唆するものである。一方我々は、低エネルギー低糖質食による減量治療が、高糖質による場合と比べ、内臓脂肪をより減少させることを報告した(3)。
「はじめに」
今回我々は、メタボリックシンドロームに対する低エネルギー食の適正糖脂質比についてGHの関与を中心に検討した。
対象:当院入院のメタボリック症候群(日本内科学会の基準による)40例。
「対象と方法」
方法:入院にて、低エネルギー食(1000kcal/day)による減量治療を行った。対象を高糖質食群(HC群、P:F:C=26:10:62)と低糖質群(LC群、P:F:C=25:35:39)に分け、4週間施行した。開始時患者背景を表1に示す。低エネルギー食施行前後で、体重(BW)、空腹時血糖(FBS)、インスリン値(basal IRI)、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、HDL-コレステロール(HDL-C)、LDL-コレステロール(LDL-C)を測定し、さらにGH分泌能、内臓脂肪量、皮下脂肪量を測定した。GH分泌能は血中IGF-1濃度で判定した。内臓・皮下脂肪量は、臍部CT撮影によって得られる内臓脂肪面積と皮下脂肪面積を用いた。運動療法は食後30分の歩行とした。施行期間は3週間で、その間内服治療の変更は行わなかった。
1.減量治療前後でのGH、IGF-1の変動量(図1)
「結果」
LC群はHC群に比べ、GHとIGF-1は有意に上昇した。このことから、摂取エネルギーの成分比がGHの分泌調節に関与することが示唆された。
2.減量治療前後での体重、内臓・皮下脂肪面積の変動(図2)
体重低下量はLC群でHC群に比べ、顕著であったが、統計学的にその差は有意ではなかった。内臓脂肪量は、LC群でHC群に比べ有意に減少した。皮下脂肪の変化は、両群で違いはなかった。
3.減量治療前後でのFBG、basal IRIの変動量(図3)
LC群とHC群ともに、FBSの低下量に差はなかった。しかしながらbasal IRIはLC群でHC群に比べより低下した。
4.減量治療前後での血清脂質の変動量(図4)
両群ともTC、LDL-Cは有意に低下したが、その差に違いはなかった。HDL-CはLC群で軽度低下したが、HC群では軽度の上昇を認め、その差は有意であった。TGはLC群でHC群に比べ有意に減少した。
我々は前年度の報告書で、減量を行う際にはGH分泌が促進されると内臓脂肪がより減少し、インスリン感受性が改善することを報告した。今回LC群では、HC群に比しGH分泌はより亢進し、それにともなって内臓脂肪の減少、糖脂質代謝の改善がより著明に生じることが示された。我々は、GHが直接的に内臓脂肪に作用し、その分解を特異的に促進することを報告している(1)。したがって今回の検討で得られたGH分泌の上昇は、内臓脂肪が減少した結果ではなく、原因と考えられた。
「考察」
内臓脂肪蓄積はインスリン抵抗性の生じる重要な要因のひとつとであり、減量を行う際には内臓脂肪がより減少することが望まれる。今回の検討で、LC群ではHC群に比し、内臓脂肪量がより低下した。皮下脂肪量の変化には差はなかった。体重はLC群でより低下しており、その差は内臓脂肪量の減少によるものと考えられた。糖代謝変動では、両群ともFBSの低下量に差はなかったが、LC群でbasal IRIの低下が著明であった。このことはLC群でHC群に比し、生体のインスリン作用が増強したことを示唆している。脂質代謝変動では、LC群でTGの低下が顕著であり、HDL-Cも軽度上昇した(表3)。両群でのこの変化の違いは、LC群でHC群に比し、インスリン感受性がより上昇したことを示唆するものと思われる。これら糖脂質代謝の改善は内臓脂肪減少にともなうインスリン感受性の上昇に伴うものであると考えられた。
今回の検討で低エネルギー低糖質食のほうが高糖質食に比べ、GH分泌がより促進され内臓脂肪がより減少し、インスリン感受性が改善することが示唆された。このことから低エネルギー食による減量治療を行う際には、そのエネルギー配分として低糖質にするほうが、より効果的であることが示唆された。
「参考文献」
1. Itoh Y, Shirai K, Miyashita Y, Watanabe H, Tomioka H, Irie M: Preferential lipolysis in rat visceral adipose tissues by growth hormone. Endocrinol Metab 4: 61-67, 1997 2. Irie M, Itoh Y, Miyashita Y, Tsushima T, Shirai K: Complication in adults with growth hormone deficiency -a survey study in Japan-. Endocrine Journal 51: 479-485, 2004 3. Miyashita Y, Koide N, Ohtsuka M, Ozaki H, Itoh Y, Oyama T, Uetake T, Ariga K, Shirai K: Beneficial effect of low carbohydrate in low calorie diets on visceral fat reduction in type 2 diabetic patients with obesity. Diabetes Res Clin Pr 65: 235-241, 2004