指定課題研究報告
成人成長ホルモン欠乏症患者の転帰及び診断、治療に関する研究



メタボリック症候群発症・増悪に対するGH分泌能関与の可能性に関する臨床的研究
- 減量による成長ホルモン(GH)分泌能の変化と内臓脂肪量の関係 -
宮下 洋(東邦大学医学部付属佐倉病院内科)
斎木 厚人(東邦大学医学部付属佐倉病院内科)
白井 厚治(東邦大学医学部付属佐倉病院内科)


はじめに

 近年、同一個体に動脈硬化危険因子が集積し、その結果冠動脈疾患のハイリスク群となる病態をメタボリック症候群と呼び、その病態機構の解明が急がれている。メタボリック症候群の増悪要因としては肥満、特に内臓脂肪蓄積があげられている。我々は、GHが直接的に内臓脂肪に作用し、その分解を特異的に促進すること(1)、さらに成人GH欠損症では動脈硬化性疾患の頻度が高いこと(2)を報告した。これらの結果は、GH分泌不全が内臓脂肪蓄積と関係があり、メタボリック症候群の発症要因のひとつであることを示唆するものである。
 今回我々は、GHがメタボリック症候群の発症あるいは増悪要因に内臓脂肪量調を介して関与している可能性を明らかにするため、肥満患者で減量治療を行い、その前後でGH分泌と内臓脂肪量の変化を観察し、その関係をみた。


対象と方法

対象: 肥満をともなう2型糖尿病男性患者6例(平均年齢56歳、平均BMI29.3kg/m2)。
方法: 入院にて、食事運動療法を施行し減量治療を行った。食事療法は、低エネルギー食(1000kcal/day)施行群3名、フォーミュラー食(970kcal/day)施行群3名とした。減量治療前後で、体重(BW)、空腹時血糖(FBS)、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、HDL-コレステロール(HDL-C)を測定し、さらにGH分泌能、内臓脂肪量、皮下脂肪量を測定した。GH分泌能は血中IGF-1濃度で判定した。内臓・皮下脂肪量は、臍部CT撮影によって得られる内臓脂肪面積と皮下脂肪面積を用いた。運動療法は食後30分の歩行とした。施行期間は3週間で、その間内服治療の変更は行わなかった。


結果

1. 減量治療前後での体重、IGF-1、FBS、血清脂質の変動(表1)
 減量にてIGF-1は上昇した。またFBS、TGの著明な低下、TCの軽度低下とHDL-Cの軽度上昇が認められた。このことから、減量によってGH分泌は上昇し、インスリン感受性は改善することが示唆された。

2. 減量治療前後での内臓・皮下脂肪面積の変動(図1)
 減量前後で内臓・皮下脂肪面積ともに減少した。その減少量は内臓・皮下で違いは認めなかった。

3. 体重変動量とIGF-1変動量の関係(図2)
 減量によってGH分泌が促進されるか否かを明らかにするため、体重変動量とIGF-1変動量の関係をみた。その結果、体重変動量とIGF-1変動量は相関がみらなかった。ただしフォーミュラー食施行群では、すべてIGF-1分泌が上昇した。このことから、かならずしも減量によってGH分泌が促進されるわけではなく、摂取エネルギーの成分比もその分泌調節に関与することが示唆された。

4. GH responderとnon-responderの減量前後での糖脂質代謝変動
 図2からフォーミュラー食施行群3例をGH responder、低エネルギー食施行群3例をGH non-responderとし、それぞれの特性を検討した。両群の減量開始前背景を表2に示す。はじめに両群で減量前後でのBW、FBS、血清脂質の変動量を比較してみた。GH responderはnon-responderに比し、BWはより低下し、TGの著明に低下、HDL-Cの上昇を認めた。TCの低下量はnon-responderのほうが顕著であった。

5. GH responder、non-responderでの内臓・皮下脂肪量の変動
 皮下脂肪面積は、GH responderとnon-responderともにほぼ同様の低下をみた。内臓脂肪面積はGH responderで著明に低下したのに対し、non-responderではほとんど低下しなかった。このことから、減量の際GH分泌が促進されると内臓脂肪の減少が生じることが示唆された。


考察

 GHは小さな刺激においてもその分泌変動が著しいため、今回の検討は比較的安定した値を示すIGF-1を測定することでGH分泌能の指標とした。我々は、GHが直接的に内臓脂肪に作用し、その分解を特異的に促進することを報告している(1)。したがって今回の検討で得られた結果は、IGF-1の作用ではなく、GHの作用であると考えている。
 肥満はインスリン抵抗性の生じる要因のひとつであり、減量によってそれが改善されることは古くから知られている。今回、減量によってFBS、TGの低下とHDL-Cの上昇が認められ、またIGF-1の上昇もみられた(表1)。このことから、減量によるインスリン抵抗性改善には、GH分泌も関与する可能性が示唆された。
 内臓脂肪蓄積はインスリン抵抗性の生じる重要な要因のひとつとであり、減量を行う際には内臓脂肪がより減少することが望まれる。今回の検討で、GH responderではnon-responderに比し、内臓脂肪量がより低下した(図3)。皮下脂肪量の変化には差はなかった。体重はGH responderでより低下しており(表3)、その差は内臓脂肪量の減少によるものと考えられた。糖脂質代謝変動では、GH responderでTGの低下が顕著であり、HDL-Cも軽度上昇した(表3)。両群でのこの変化の違いは、GH responderでnon-responderに比し、インスリン感受性がより上昇したことを示唆するものと考えられた。この結果は内臓脂肪減少にともなうインスリン感受性の上昇であることが示唆された。一方GH non-responderでGH responderに比しFBS、TCの低下が著明であったのは(表3)、開始時の値がGH responderに比し高値であったことが要因として考えられる。
 今回の検討では、減量によって必ずしもGH分泌が生じるわけでないことも明らかとなった(図2)。興味深いことにIGF-1の上昇がみられたケースは、すべてフォーミュラー食を用いた群であった。フォーミュラー食は蛋白質中心で、糖質、脂肪を極力抑えた食品である。我々は糖質制限が内臓脂肪を減少させることを報告しており(3)、フォーミュラー食でGH分泌が促進した理由として糖質制限が関与したと考えている。
 減量を行う際には、GH分泌が促進されると内臓脂肪がより減少し、インスリン感受性が改善することが示唆された。このことからGHは内臓脂肪量を調節する因子であり、インスリン抵抗性の治療としてGH分泌を促進するような治療法を確立する必要があると考えられた。今後は症例数を増やし、さらにGHの脂肪細胞に対する分子機構も明らかにする予定である。


参考文献

1.   Itoh Y, Shirai K, Miyashita Y, Watanabe H, Tomioka H, Irie M: Preferential lipolysis in rat visceral adipose tissues by growth hormone. Endocrinol Metab 4: 61-67, 1997          
2.   Irie M, Itoh Y, Miyashita Y, Tsushima T, Shirai K: Complication in adults with growth hormone deficiency -a survey study in Japan-. Endocrine Journal 51: 479-485, 2004          
3.   Miyashita Y, Koide N, Ohtsuka M, Ozaki H, Itoh Y, Oyama T, Uetake T, Ariga K, Shirai K: Beneficial effect of low carbohydrate in low calorie diets on visceral fat reduction in type 2 diabetic patients with obesity. Diabetes Res Clin Pr 65: 235-241, 2004          






















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