指定課題研究報告
成人成長ホルモン欠乏症患者の転帰及び診断、治療に関する研究



成人下垂体機能低下症における肥満に関与する因子
村上 宜男(島根大学医学部内分泌代謝・血液腫瘍内科学)




はじめに

 2001年度施行の成人下垂体機能低下症全国疫学調査において、多数のホルモン分泌障害を有する成人下垂体機能低下症患者ではトルコ鞍外の病変の有無や性腺ホルモン補償の有無にかかわらず、肥満は20〜30%の高い頻度で合併することが明らかとなった(1)。体脂肪の増加や除脂肪体重の減少などの体成分組成異常は成人成長ホルモン欠損症の主要な病態のひとつであるが、肥満の進展には成長ホルモン分泌低下症以外にも甲状腺や性腺機能低下症、グルココルチコイドの補償のほか視床下部障害など体成分組成、脂質代謝や食欲に影響する他の因子も寄与し得る。
 今回は、より軽症例も含めて成人下垂体機能低下症患者の肥満に寄与する因子について解析した。


方法

 2001年度の成人下垂体機能低下症全国疫学調査で報告された症例のうち、GHおよびACTH産生下垂体腺腫を除外した1272例を検討の対象とした。ACTH、TSHおよびAVP欠損症の大部分ではホルモンの補償投与が行われていた。ゴナドトロピンは、欠損症例737例のうち459例でホルモンの補償投与が行われていた。GH分泌刺激試験は555例で行われていた。インスリン、アルギニン、グルカゴンおよびL−ドーパ刺激試験の頂値が5 μg/Lを越えない例をGH欠損症、GHRHを含む刺激試験の頂値が5 μg/Lを越える場合にはResponderとした。717例においてはいずれの刺激試験も行われていなかった。GH欠損症とResponderのいずれにも属さない症例は"Not Determined"とした。ホルモン補償療法中の肥満度の情報が得られた654例について解析した。


結果

 肥満(BMI≧25)を合併する頻度について、性、年齢、ゴナドトロピン、GH、TSH、およびADH分泌低下症、ならびに糖質コルチコイド補償の有無別に集計した(図1)。肥満(BMI≧25)は男性、TSH分泌低下症およびADH分泌低下症の群で高頻度であった。年齢群間で肥満の頻度には差を認めなかったが、BMIが30以上の高度肥満は40歳未満の若年群で高頻度に認められた。GH分泌能についてみると、GH欠損症とGH分泌能が評価されていない群ではResponderに比較して頻度が高い傾向を認めたが、推計学的に有意ではなかった。
 各因子の独立した寄与について、Logistic回帰分析を用いて解析した(図2)。肥満(BMI≧25)に独立して寄与する因子は男性、TSH分泌低下症およびADH分泌低下症であった。


考察

 2001年度に施行の成人下垂体機能低下症全国疫学調査においては、14例の死亡例が報告された。直接死因のうち脳出血2例、心不全1例、突然死1例で、血管障害による死亡は少数であった。ホルモン補償療法中に出現した主な合併症として狭心症などの心疾患、脳梗塞の発症はそれぞれ6例のみであったが、高脂血症、糖尿病、高血圧など血管障害の危険因子となる疾患については多数の報告例が得られた。これらの症例を含めて、高脂血症治療薬は170以上の例で、循環器用薬は120以上の例で用いられていた。したがって、本邦の成人下垂体機能低下症患者においては心血管系疾患の発症やこれらによる死亡は多くはないが、これには危険因子の治療が寄与している可能性が考えられた。
 今回の検討では、男性とADH欠乏症が肥満に寄与する因子であった。BMIが30以上の高度の肥満は若年者に多く認められたことから、頭蓋咽頭腫や胚芽腫などの視床下部由来の腫瘍で肥満の頻度が高いことを反映するものと推定される。
 TSH分泌低下症は独立して肥満に寄与する因子であった。甲状腺機能低下症では水およびナトリウムの貯留のために体重が増加する。また、高コレステロール血症のもTSH分泌低下症を有する群で有意に高い頻度で認められた(2)。したがって、本邦における下垂体機能低下症患者の多くにおいて、甲状腺ホルモンの補償量が過少である可能性が示唆される。
 GH分泌能についてみると、GH欠損症とGH分泌能が評価されていない群ではResponderに比較して頻度が高い傾向を認めたが、多変量解析においては有意ではなかった。負荷試験でGH分泌能が評価されていない報告例が多いため、推計学的に十分な検出力が得られなかった可能性が考えられる。また、GH欠損症の頻度や重症度は他の下垂体前葉ホルモンの欠損に依存するので、肥満に対するTSH分泌低下症の寄与は、GH欠損症を含む下垂体前葉ホルモン欠損全体の重症度を反映するものかもしれない。成人下垂体機能低下症患者の肥満におけるGH欠損症の役割については、GH分泌について適切に評価した患者群における解析が必要であると考えられる。


文献

1.  村上宜男、横山徹爾、大磯ユタカ、加藤 讓:疫学調査からみた成人下垂体機能低下症の臨床像.厚生労働省特定疾患間脳下垂体機能障害調査研究班(班長:加藤 讓)平成13年度研究事業報告書、170-176, 2002.          
2.  Murakami Y, Kato Y: Hypercholesterolemia and obesity in adult patients with hypopituitarism: a report of a nation-wide survey in Japan. Endocrine J., 50: 759-765, 2003.          










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