指定課題研究報告
成長ホルモン療法の治療効果におよぼす諸因子の解析に関する研究



「成長ホルモン療法の長期治療効果に及ぼす諸因子の解析に関する研究」
主任研究者 横谷 進(虎の門病院小児科)
 藤枝 憲二(旭川医科大学小児科)
 島津 章(国立病院機構京都医療センター臨床研究センター)
 立花 克彦(日本ケミカルリサーチ株式会社)
 田中 弘之(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
 谷澤 隆邦(兵庫医科大学小児科)
 寺本 明(日本医科大学脳神経外科)
 西   美和(広島赤十字・原爆病院小児科)
 長谷川 行洋(都立清瀬小児病院内分泌代謝科)
 羽ニ生 邦彦(羽ニ生クリニック)
 堀川 玲子(国立成育医療センター内分泌代謝科)
 藤田 敬之助(大阪市立総合医療センター小児内科)
 永井 敏郎(獨協医科大学越谷病院小児科)



 成長ホルモン療法の治療効果に及ぼす諸因子の研究のうち、次の5課題につき報告する。

1. プラダー・ウイリー症候群の成長ホルモン治療における骨密度の変化(分担:永井)
2. 小児慢性腎不全における成長ホルモン治療の長期効果(分担:谷澤)
3. ターナー症候群の早期・高用量GH治療効果について(分担:堀川)
4.  ターナー症候群の成長ホルモン治療による最終身長の検討(分担:藤田)
5.  Severe short stature with severe GHD に関するアンケート結果(分担:羽二生)


1. プラダー・ウイリー症候群の成長ホルモン治療における骨密度の変化


はじめに
 プラダー・ウイリー症候群(PWS)は、成長ホルモン分泌不全、性腺機能不全などの内分泌学的異常を有するため、骨密度が低下することが知られている。事実、PWS患者が、生涯一度以上骨折を経験する頻度は25%以上と言われている。しかし、実際にPWS患者が、どの程度骨密度が低下しているのか、まとまった報告はない。さらに、その治療として成長ホルモンが骨密度に如何なる影響を与えるのかも不明である。

目的
1) あらゆる年齢のPWS患者の骨密度を健常対象と比較する。
2) 成長ホルモン治療に伴う骨密度の変化を経時的に評価する。

対象と方法
 50名(男性30名、女性20名、年齢7ヶ月から38歳)を対象に、DEXA法で腰椎の骨密度を、治療前からGH治療後6ヶ月ごとに30ヶ月まで計測した。

結果
1) 骨密度は50名全例で、健常者のmeanを下回り、統計的有意差をもって患者群では骨密度の低下が見られた。25名は、健常者の‐2SD以下であった(図1)。         
2) 成長ホルモン開始後6ヶ月で有意に低下し(P<0.0001)し、その後、徐々に改善した(図2)。         





図1. 健常者とPWS患者の骨密度の比較



図2.成長ホルモン療法による骨密度の推移

考察
 骨密度は50名全員で健常者のmeanを下回り、25名が-2SD以下であった。女性においてmeanに近い骨密度を示した患者は、性腺機能不全が比較的軽い患者であった。
 成長ホルモン治療開始6ヶ月の時点で、骨密度の低下を見たのは、急激な身長増加に伴い椎体サイズの増加が惹起され、相対的に骨密度が低下すると推察される。その後、徐々に骨密度が増加して行ったのは、成長ホルモン治療の関与が推察される。


2. 小児慢性腎不全における成長ホルモン治療の長期効果


目的: 小児慢性腎不全における成長ホルモン治療の長期効果について検討する。

対象と方法:
 2年以上ヒト成長ホルモン(GH)を投与し、経過観察しえた小児慢性腎不全例である。男児35例[治療開始<11歳(思春期前):22例(5.54±2.39歳、治療歴3.86±1.77年)、治療開始≧11歳(思春期後):13例(12.43±1.58歳、治療歴3.23±1.31年)]と女児19例[治療開始<11歳(思春期前):14例(8.44±1.71歳、治療歴3.50±1.55年)、治療開始≧11歳(思春期後):5例(12.91±1.72歳、治療歴3.25±0.83年)]の総数54例である。
 ヒト成長ホルモンを新規に使用する場合、0.175mg/kg/週を少なくとも6ヶ月間投与し、成長科学協会のヒト成長ホルモン継続基準を充たし、かつ増量基準項目のいずれかに該当した場合は0.35mg/kg/週まで増量した。

結果:
1)経年的成長速度(cm/年)の推移(図1)
GH開始後3年までは4cmから7cm/年の成長速度が得られている。
2)経年的身長SDSの推移(図2)
治療開始時の身長SDSは -3.09±1.16であるが、治療後1年では -2.82±1.18に、2年後には -2.76±1.17と改善を示している。しかし、治療開始3年以降では身長SDSの改善は認められない。
3)治療開始時期別比較(思春期前群vs思春期後群)(図3)
男児ではGH治療開始時期が思春期前と後でも身長SDSの改善(ΔSDS/年)が得られている。全体としてGH治療は身長SDSの改善をもたらす。

考案:
 小児期慢性腎不全の成長障害の病因は腎性骨異栄養症をはじめとする代謝・内分泌異常などの多因子が関与している。それ故、成長発達の顕著な乳幼児期発症の慢性腎不全では透析療法をはじめとする保存的・代行治療では成長障害の進行を止めることは困難である。しかし、GH投与によって、補充量のGHを6ヶ月間投与し、その後倍量GHを投与することによって2年間であれ身長SDSを改善しえたことは臨床的に有用で、その後も少なくとも成長障害の進行を阻止できることは子どもたちのQOLを考えると強力な治療法である。しかし、GHの効果だけでは年少児期発症例では最終身長の正常化は得られないので、よりQOLの高い移植治療の可能性も追及すべきである。



図1.経年的成長率(成長速度cm/年)の推移



図2. 経年的身長SDSの推移



図3.治療開始時期別比較(思春期前群vs思春期後群)


3. ターナー症候群の早期・高用量GH治療効果について

 成長科学協会に登録されている、GH治療を受けたターナー症候群について、成長に対する治療効果を用量(0.35 vs 0.175 mg/kg/w)、治療開始年齢(6歳以上、5歳以下)に分けて検討した。治療開始後3年間の身長SDSの推移で比較すると、5歳以下で治療を開始すると用量に関わらず、約+0.7SDの身長SDSの改善が認められた。高用量群では、1年目のSD改善率が有意に高かった。6歳以上治療開始群は、治療開始時の身長SDSが早期開始群に比し有意に低く、身長SDS改善率も特に低用量群で低かった。従って、日本人ターナー症候群において、早期に高用量GHで治療すると、良好な身長改善率が得られることが証明された。長期の治療効果については今後の検討を有する。


4. ターナー症候群の成長ホルモン治療による最終身長の検討


はじめに
 わが国における、ターナー症候群の成長ホルモン(GH)治療による最終身長を検討するため、成長科学協会に提出されたGH治療申請のデータベースを用い、各申請医療機関にアンケート調査を2000年に行った。1992年までに治療を開始した例の検討を平成11年度、成長科学協会の年報に報告した。今回、それ以後の開始例も含め報告する。

結果
 GH治療後最終身長に達していたアンケート回答症例数は、1992年までの開始例は156名、1992以後の開始例は102名、計258名であった。最終身長は1992年までの開始例では145.0±5.2 cm、1992年以後の開始例では146.8±5.0 cm、全体で145.7±5.2 cmであった。以後の検討は全体で行った。GH開始年齢の平均は12.0±2.5歳であった。GH終了年齢は17.7±1.9歳、GH治療期間は5.6±2.4年であった。エストロゲン開始年齢は17.0±2.4歳、カウフマン療法開始年齢は18.3±1.8歳であった。
 GH治療開始年齢を11歳以下と12歳以下の2群に分け、検討を行った。最終身長は両群間で差はなく、女性ホルモン開始年齢についても両群間で差は認めなかった。GH治療期間と最終身長の間でも相関を認めなかった。
 GH負荷試験頂値と最終身長の間には相関は認めなかった。両親の身長と最終身長には正の相関を認めた。
 GH治療前後の日本人女性身長におけるSD値は、治療前-3.6 SD、治療後-2.3 SDで、+1.3 SDの改善を認めた。GH治療前後の日本人ターナー女性の身長におけるSD値は、自然性器出血(−)群では治療前0.40 SD、治療後1.61 SDで+1.21 SDの改善を認め、自然性器出血(+)群では治療前0.50 SD、治療後1.47 SDで+1.97 SDの改善を認めた。GH治療開始年齢とSD値の相関については、日本人身長SD、日本人ターナー女性の身長SD、いずれも相関は認めなかった。

考案
 わが国においてターナー症候群に対するGH治療は1992年に保険適応となったが、GH分泌不全例にのみ限られており、1999年にようやくGH分泌正常例にも保険適応となった。その時点でのターナー症候群のGH治療効果をまとめておくことは有意義と考え、成長科学協会に提出されたGH治療申請のデータベースを用い、各申請医療機関にアンケート調査を2000年に行った。1992年までにGH治療を開始した例は下垂体性小人症の中に含められており、1992年以後はターナー症候群として登録されている。1992年時点でターナー症候群として継続申請のあった群、それ以後にGH治療開始申請のあった群で最終身長に達した例について検討を行った。
 256例の解析で最終身長の平均は145.7 cmであった。わが国でのGH治療をうけていないターナー女性の最終身長は、高野らの報告によると138.2±5.6 cmで7.5 cmの効果が認められた。最終身長はGH分泌の頂値とは相関はなく、GH分泌正常例にも保険適応となったことは、今後の治療効果に期待が持てる。しかし、日本人女性の平均身長は158.1±5.0 cmであり、ターナー女性におけるGH治療後の最終身長145.7 cmはまだ十分とはいえない。
 治療開始年齢と最終身長、身長SD値の改善度との関係を検討したが、いずれも関連は認めなかった。すなわち、早く治療を開始すれば最終身長が良くなるとはいえない、という予期に反する結果であった。では、早く治療を開始する意味はないのか、というとそうではない。治療開始後1-2年で身長のキャッチアップがみられるため、早く治療を開始すれば、その分低身長は改善する。今回のアンケートではGH開始年齢が12歳と高く、現在治療中の人はそれより早く治療を開始されていると予想され、その人たちが最終身長に達した時のデータでの分析が期待される。また、治療量が1999年に倍に認められ、その効果も期待できる。
 女性ホルモン治療開始年齢は、この時点では17歳と欧米の12-14歳に比して遅く、これはGH開始年齢が遅いことと関係していると考えられる。カウフマン治療まで1年であり、欧米のように、少量の女性ホルモン治療から開始し、段階的に増量し、数年かけてカウフマン治療に移行する方法が望まれる。
 今後、わが国において、ターナー症候群をより早期に診断し、早期にGH治療を開始し、早期に女性ホルモン少量から治療を開始することにより、ターナー女性の発育曲線を一般の女性に近づけ、QOL改善に結び付けていくことが期待される。


5. Severe short stature with severe GHD に関するアンケート結果

 1986年3月から1998年1月までに成長科学協会に登録された特発性かつ性腺抑制療法を受けていない23,110例のGH分泌不全性低身長症のうち身長SDスコア(HtSDS)が -4以下で、かつ全ての負荷試験に対するGHの頂値が全て2μg/L未満のVery severe short stature with severe GH deficiency (Severe Case)は139例であった。これらの症例の臨床的特徴、病因および病態等に関し各々の主治医にアンケートを行った結果、51例の有効回答を得た。
 51例のSevere Caseの中で、特発性GH分泌不全性低身長症が44例と多数を占めGH-1遺伝子異常が3例、Pit-1遺伝子異常が2例、軟骨無形成症が2例であった(Table 1)。これら遺伝子異常例を含め、家族性はType II の1例のみで、両親が血族結婚であるケースは1例もなかった。なお、44例の特発性GH分泌不全性低身長症の内、12例がGHの単独欠損、残る32例が下垂体ホルモンの複合欠損であった(Table 2)。
 これらの症例のHtSDSは生後12ヶ月(-3.0)と24ヶ月(-3.9)時点で既に著明に低値であった。出生時の身長、体重には大多数を占める他の群と有意差が無かった事より、Severe Caseの成長障害は出生直後より生じているものと考えられた。
 下垂体部のMRIは特発性の25症例で施行され、その内21例に下垂体部の異常所見(下垂体萎縮、下垂体茎の断裂、異所性後葉)が見られ、いずれも下垂体ホルモンの複合欠損例であった。これらの症例の半数以上(13例)が骨盤位分娩歴を有した。一方、3例のGH-1遺伝子異常例のMRI所見は正常であったが、Pit-1遺伝子異常では2例中1例で下垂体の萎縮と下垂体茎の狭小が認められた(Table 3).
 低身長に関係した遺伝子の検索を主治医が希望する症例は2例のみで、他の42例においては主治医が臨床像や内分泌データ、画像診断等より遺伝子異常の可能性が低いと判断したために遺伝子検索の希望無しとしたものと考えられる。従って、これら2例がGH関連の遺伝子異常による低身長であったと仮定しても低身長全体におけるかかる遺伝子異常症の割合は0.08%と極めて低いものと推定される。
 以上、成長科学協会に登録された特発性かつ性腺抑制療法を受けていないGH分泌不全性低身長症の中でSevere short stature with severe GH deficiency例の発生頻度は23,110例中139例(0.6%)と僅かであるが、この様なSevere Caseの中でGH関連の遺伝子異常の頻度は全体の0.08%以下と非常に低いことが推定された。しかし、Severe Case に限ってみると、その頻度は14%ないしそれ以下とかなり高頻度となる。軟骨無形成症以外の遺伝子異常が疑われる時はGH-1やPit-1遺伝子の検索が重要と考えられた。これらSevere Caseの成長障害は出生後の早期に生じているものと考えられ、最終身長の改善のためにはより早期の診断と治療が望まれる。











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