指定課題研究報告
低身長児の対人関係とQOLに関する研究


沖 潤一
旭川厚生病院 副院長


研究チーム:白井 勝(旭川厚生病院),藤枝憲二,田中 肇,荒木章子,雨宮 聡,角谷諭美,
大日向純子(旭川医科大学小児科),土屋映美(旭川医科大学 医学部学生),長 和彦,宮本晶恵(旭川療育センター)




 平成14年度は,子宮内発育遅延(IUGR),低身長児が,広汎性発達障害,注意欠陥/多動性障害における割合を検討した。この研究において,言葉の遅れで受診した幼児で低身長を合併した場合は,くも膜嚢胞などの中枢神経系の合併に注意し,後の行動や対人関係の問題に着目した経過観察が必要であることを報告した。
 平成15年度は,低身長の原因(成長ホルモン分泌不全,虐待・ネグレクトなど)によって,認知機能・対人関係がどのように異なるのかを目的とした研究を行った。まず,ネグレクト・虐待による低身長では,その心理的な背景を明らかにするとともに,発症早期から体重や身長の伸び率が低下することに着目したパンフレットを作成した。次に,旭川厚生病院NICUに入院し,現在小学校に入学した超低出生体重児の精神・神経学的予後を検討し,発達予後と栄養状態の関連などについて検討した。


T.成長曲線を用いた虐待・ネグレクトの早期発見について

 戸外に放置され低体温となった被虐待児症候群の女子,硬膜下出血を来たした男児,るいそうと低身長を来たしたネグレクトの女子,同級生のいじめにあった男子例の成長曲線を提示し,成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌異常以外でも,いかに子どもの成長・発達が障害されるかを示した。
 これらの症例をまとめ,小児科学会の学校保健・心の問題委員会で「成長曲線からみた摂食障害,ネグレクト,肥満の早期発見について」というパンフレットを作成し,平成16年3月に東京慈恵会病院にて公開フォーラムを開催した。

1. 緒言

 ますます社会的な問題となっている虐待・ネグレクトは,自ら病院を訪れることが期待できない疾患であり,医療機関と保健師,養護教諭,行政機関といった他の職種との連携が,早期発見・適切な介入に不可欠である。しかし,お互いに連携を保ちながら,早期から介入することは必ずしも容易ではない。
 今回は,奥山真紀子先生(国立成育センター)がパンフレットでマルトリートメントと成長曲線の関連について述べているのでその一部を抜粋し,次に,筆者らが経験してきた虐待・ネグレクトの成長曲線について述べ,生育環境の変化が身長・体重の増加率に影響を与えるのかを示した。

2. 子どもへのマルトリートメントの早期発見方法としての成長曲線の有用性(奥山真紀子:国立成育センター)(小児科学会学校保健・心の問題委員会で作成したパンフレットから抜粋,日本小児科学会ホームページ:http://www.jpeds.or.jp/より抜粋))

 子どもへのマルトリートメント(虐待やネグレクト)では,以前から体重や身長の伸びが悪いことが知られている。特に,情緒的ネグレクトによる低身長は deprivation dwarfismとして有名である。国立成育センターにおける虐待対応チームでも,虐待を疑ったケースは,必ず成長曲線を描くようにしている。マルトリートメントによる成長曲線の変化は,環境の悪化や改善によってその伸び率が変わるのが特徴である。このため,成長曲線をつけると,環境が悪いときは伸び率が下がり,環境が改善すると伸び率が上がるということを繰り返し,成長曲線が階段状になることもある。
 マルトリートメントによる成長曲線の変化は,特に乳幼児で顕著であるが,小学校低学年でも身長や体重の増加率の低下といった変化をきたす。また,過去の成長曲線を把握することで,どの時期に何らかの重篤な心理的負担がかかったことを推察することができる。また,乳幼児期に成長曲線を描くことのできる情報が欠落しているとしたら,それ自体が子どもに対する関心のなさを示すことになる。 
 現在の学校は,家庭環境がつかみ難い立場にある。突然家庭環境に関する質問をすることが憚られるが,身体的計測を基に,成長曲線の伸びが悪い時期にどのような環境に関する変化(ライフイベントを含む)があったかを親と話すことは,話の糸口としても受け入れられやすいものである。成長曲線を描くことは,それほど技術のいることではなく,誰にでもできる。したがって,広く一般的に成長曲線を使用することは,子どもの家庭環境問題の早期発見と改善を促すことができる。

3.虐待・ネグレクトの症例提示

3−1.戸外に放置され低体温,播種性血管内凝固症候群を呈した5歳女子(図1)
 父29歳,母23歳の時の第一子であり,在胎41週,出生体重3,300gで生まれた。頚定が6カ月,一人歩きが1歳6カ月と遅く,2歳になっても単語が出てこなかった。患児が1歳9カ月のときに妹が生まれたり,父親の女性問題という家庭内のトラブルもあった。母親の関心も,次第に発達の良好な妹のほうに向いていった。
 5歳のときの冬(最低気温−15.6℃),全身が冷たく,意識障害がみられたため緊急入院となった。患児が冷たく意識障害に陥ったことに対して両親は,「前の日に階段から落ちて,右にたんこぶができた。今日は,ずっと眠っており,夕方起こそうとした時,意識がなく身体が冷たくなっていた」と説明した。顔面,体幹に新旧入り混じった多数の皮膚潰瘍の跡,皮下血腫やタバコによると推定される円形の火傷の跡があった。厳寒の戸外に放置された低体温と判断したが2),親権は剥奪にいたるまでの証拠が得られなかったため,当時(20年前)の法律では強制保護にまでは至らなかった。
 いったん退院したが,1年後,6歳の冬に,両側の足指に重篤な凍傷が認められた。児童相談所に一時保護した後,施設入所となり成人を迎えた。
 この症例の成長曲線を図1に示した。1歳半までは,標準的な発達を呈していたが,妹が生まれたり,夫婦間の問題が生じたりした2歳以降,身長,体重の伸び率が低下していたことが明確に示されている。また,低体温,意識障害で入院した後,身長,体重の伸び率が急速に改善したが,退院後は再び体重減少がみられた。児童相談所に一時保護し,施設に移ったあとは,曲線に沿って身長,体重とも増加したが,乳幼児期から予想されるこの子本来の最終身長には及ばなかった。

3−2.三層の慢性硬膜下出血を来たした男児(図2)
 不適切な育児が心配され経過観察していた男児であるが,1歳4カ月のときに,極端な栄養障害,痙攣発作,意識レベルの低下を来たし入院した。頭部MRIで,三層の皮膜を形成する慢性硬膜下出血を認め,繰り返して頭部に打撲を受けたことによる硬膜下出血と診断した。緊急に手術を行い,入院後は義父から母児を離したところ身長・体重の増加が確認された。児童相談所などの監視のもと退院したが,その後再び体重減少が顕著となり,再入院となった。経過から父親の暴力による被虐待児症候群と診断した。正式に離婚が成立してからは,図2に示したように身長・体重の増加率とも回復がみられた。

3−3.るいそうと低身長で入院した6歳女児(図3,4)
 著明なやせと身長が伸びないことを主訴として入院した6歳女子である。入院時の身長は94.9cm,体重は10.1kgであり,肥満度−26%の著明な痩せを認めた。在胎39週,出生体重2,980gであり,生後7カ月までは順調な発達を示していた(図3)。しかし,その後は乳幼児健診を受けておらず,母子手帳にも身長・体重の記載がなかった。6歳の入院時は,全身の衰弱が著しく,表情は乏しく会話もみられなかった。兄ばかり大切にされる封建的な家族であり,両親の不仲といった家族背景があった。母の話によると,家では制限無く食べるため,食事を制限していたとのことだった。
 患児が幼稚園で描いた「カメと遠足」という題の絵を図4に示した。母と兄のカメが大きなサンドイッチを食べており,この光景を陰から覗いている小さなカメが自分であると説明してくれた。兄の母親に対する甘えや,食べ物の好みが優先し,常に患児は自分の気持ちを抑制しているといった家族背景が表現されている絵であった。患児には食べ物に対する過度の執着があり,入院後は自由に食事を摂取させ,積極的に外で遊ぶように指導した。約2カ月間の入院で,身長が98.4cmに伸び,体重が14.0kgに増加した。肥満度も−26%から−5%に改善した。しかし,医師の前では,両親とも食事・遊びを自由にさせると話してくれるが,根本的な家庭環境の問題を解決するまでには至らなかった。

4.考案

 横断的な身長・体重の計測値だけでは,得られる情報は限られている。これに対して,縦断的に計測値をプロットして得られる成長曲線は,明らかな症状が出現する以前から変化がみられ,摂食障害や虐待・ネグレクトの発症時期を推測することも可能である。今回提示した症例でも,低体温で入院した女子(3−1)では,身長,体重の増加率が低下してきたのは,4年前の妹が生まれた後からであり,この頃からすでに患児に対する両親の愛情の変化が生じていたものと推察された。また,三層の硬膜下血腫で緊急手術した男児(3−2)も,意識障害が出現する半年前から成長曲線に変化をきたしていた。また,長兄ばかり大切にされる家庭で育った女子(3−3)も,るいそう・低身長で入院したのは6歳だったが,2年前の4歳から既に成長曲線に変化がみられていた。
 このように,病院を受診するかなり以前から虐待・ネグレクトが潜在的に発生しており,乳幼児健診・学校健診で測定している身長・体重の増加率を縦断的に判読することで,ネグレクト・虐待をより早期に発見することが可能である。成長曲線は,特別な器具や面倒な検査を行なわなくても作成でき,成長曲線に変化があった時には,内分泌学的な検討はもとより,児童生徒を取り巻く環境の変化に注意すべきである。

5. 結論

(ア)  長増加率の低下は,内分泌疾患のみならず,虐待・ネグレクトなど悪化した生育環境でも起きる可能性があり,今回作成したパンフレットなどを用いて教育機関,行政機関にも周知すべきである。
(イ)  成長曲線を母子手帳に留めておくのではなく,学童期の身体測定結果を継続して記録する個人手帳を作成すべきである。

 本研究は,平成15年度厚生科学研究(子ども家庭総合研究事業)「小児心身症対策の推進に関する研究」(主任:小林陽之助)および平成15年度成長科学協会の研究助成の援助によるものであり,この論文の要旨は小児保健研究に掲載予定である。

【図表の説明】

図1.寒冷暴露による低体温・意識障害を来たして入院した5歳女子(症例3−1)の成長曲線
図2.三層の硬膜下血腫を認めて1歳で緊急手術を行った(症例3−2)男児の成長曲線
図3.ネグレクトによって,るいそう,低身長を来たし6歳で入院した(症例3−3)女子の成長曲線(左図)と肥満度曲線(右図)
図4.症例3−3が幼稚園の時に,「カメの遠足」という題で描いた絵


U.旭川厚生病院NICUにおける超低出生体重児の神経学的予後(白井 勝ら,日本新生児学会雑誌2003;39:488-493)

1. 緒言

 新生児医療の進歩とともに新生児死亡率は低下し,出生体重1,000g未満の超低出生体重児においても生存退院児が増加している。今回は,就学後まで経過観察し得た超低出生体重児の知能検査を含んだ神経学的な予後を明らかにし,NICU入院中の栄養状態,各種臨床的背景について検討した。

2. 対象と方法

 1990年代前半の5年間に旭川厚生病院NICUに入院した出生体重は1,000g未満の児は55名であり,生存退院は37名(生存率67%)だった。このうち小学校入学後も経過観察しえた32名について,WPPSIもしくはWISC-R/Vを含んだ精神・神経学的な検討を行なった。知的障害や麻痺もない正常発達は15例(47%),境界領域は8例(25%),知的障害は13例(28%)であり,脳性麻痺を合併していたのは境界領域のうち4例,知的障害のうち4例だった。これらの対象を,正常発達群19例と障害を有する群13例の2群に分け,NICU入院中の臨床背景を比較した。なお,正常発達群の在胎週数は平均26.6週,平均出生体重は803gであり,障害を有する群の27.0週,814gと差がなかった。

3. 結果

 正常発達群と障害を有する群を比較した結果,差がみられたのは以下の臨床背景であった。
(1) 最高体重減少率(正常発達群21.8%,障害を有する群26.8%)
(2) 出生体重復帰日齢(正常発達群37,障害を有する群46)
(3) 出生体重の2倍到達日齢(正常発達群88,障害を有する群103)
(4) 生後ステロイド投与日数(正常発達群4.3日,障害を有する群14.5日)
(5) 無呼吸発作消失日齢(正常発達群81,障害を有する群116)

4. 考察

 障害を有する群では,体重減少率が大きく,無呼吸発作の続いた日数が有意に長かった。今回得られた結果からは,生後早期の栄養管理が将来の精神神経学的な発達予後と関連があったことが示唆され,超早期の授乳開始などを検討する必要があると思われた。
 また,障害を有する群でステロイド投与日数が長かったことは,慢性肺疾患の存在などの問題も絡み一概には言えないが,ステロイドが灰白質の発達に何らかの悪影響を与えたことが考えられた。すなわち,慢性肺疾患発症のハイリスクである超低出生体重児では,ステロイド投与をより慎重に行なう必要がある。

5. 結論

 超低出生体重児では,腸管の未熟性といった問題があり容易ではないが,可能な限り栄養状態を改善させることに着目した管理が必要である。
















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