指定課題研究報告
「成長ホルモン療法の長期治療効果に及ぼす諸因子の解析に関する研究」
主任研究者 横谷 進 (虎の門病院小児科) 藤枝 憲二 (旭川医科大学医学部小児科) 島津 章 (国立京都病院臨床研究部) 立花 克彦 (神奈川県立こども医療センター内分泌代謝科) 田中 弘之 (岡山大学大学院医歯学総合研究科) 谷澤 隆邦 (兵庫医科大学小児科 寺本 明 (日本医科大学脳神経外科) 西 美和 (広島赤十字・原爆病院小児科) 長谷川 行洋 (都立清瀬小児病院内分泌代謝科 羽ニ生 邦彦 (羽ニ生クリニック) 堀川 玲子 (国立成育医療センター総合診療部) 藤田 敬之助 (大阪市立総合医療センター小児内科) 永井 敏郎 (獨協医科大学越谷病院小児科)
成長ホルモン療法の治療効果に及ぼす諸因子の研究のうち、次の4つにつき報告する。
1. Prader-Willi症候群における成長ホルモン治療効果
−体組成と骨密度の変動についてー(分担:永井)
2. 慢性腎不全性低身長症の治療成績報告(分担:谷澤)
3. 軟骨無形成症における成長ホルモンの効果(分担:田中)
4. Severe short stature with severe GHD に関するアンケート結果(分担:羽二生)
1. Prader-Willi症候群における成長ホルモン治療効果
−体組成と骨密度の変動についてー
【はじめに】
Prader-Willi症候群(PWS)患者への成長ホルモン(GH)療法が開始され、その身長への効果は、数多く報告されている。しかし、本症へのGH使用の大きな目的の一つに、体組成改善、骨密度増加、がある。しかし、本邦では、その成績はいまだ検討されていない。
【目的と対象・方法 】
PWS患者へのGH使用による、体組成、骨密度の変動を解析する。
対象は、GH療法を1年以上継続している21名の患者を対象に、体組成、骨密度の変動を、0ヶ月、6ヶ月、12ヶ月毎にDEXA法で検討比較した。
【結果と考察】
図1には、体組成(%Fat)の変動を示す。体脂肪は、治療開始後6ヶ月では有意に減少した(P=0.002)。しかし、6ヶ月と12ヶ月の間では、有意な減少が見られなかった(P=0.054)。
図2には、治療開始前の健常者とPWS患者の腰椎での骨密度の比較を行った。殆どの患者の骨密度は、健常者の-2SDを下回っている。
図3には、骨密度(BMD)の変動を示す。治療開始後6ヶ月、6ヶ月から12ヶ月、ともに骨密度は改善するが、統計学上有意差は出ない(それぞれP=0.128,P=0.257)。しかし、治療開始前と12ヶ月の比較では、P=0.013と有意に骨密度の改善が見られた。
【まとめ】
1.GH療法で体組成、骨密度の改善が得られた。
2.体組成改善は、治療開始後半年の時点で有意に改善しており、一年後も治療効果は持続したが、半年と一年の間には、有意差は見られなかった。
3.骨密度の改善は、治療開始後一年目で有意に認められた。
2. 慢性腎不全性低身長症の治療成績【対象患児】
1997年9月から2003年11月30日までに成長科学協会に申請された慢性腎不全性低身長症332例のうち適応があると判定されたのは324例であった。
【対象の臨床像】
申請時の腎機能は内因性クレアチニンクリアランス(Ccr)が10ml/min/1.73u未満の末期腎不全児が47%を占める。申請時年齢は12〜13歳が最多である。3歳未満が34例(10.5%)である。慢性腎不全に至った原因疾患は腎低形成/異形成などの腎・尿路奇形が70%の多数を占める。
【長期治療効果】
今回は2年以上成長ホルモン治療を施行した男児32例と女児16例の身長SDSの推移を検討した(図1,2)。男児では身長SDSは低下を認めた例は5例以外は低下を認めず,-2SD以内に改善した例が8例である。思春期前に治療を開始した例が改善傾向が強い。一方,女児では男児に比べて身長SDSの改善は少なく,思春期後例では悪化傾向が強い。
【考案】
わが国の慢性腎不全児は腎移植例が欧米に比して少なく,長期透析を余儀なくされている症例が多い。したがって,長期透析に伴う成長障害が避けられず,従来の低蛋白・低リン食治療,活性型ビタミンD薬,アルカリ療法などの内科的保存的治療に加えて成長ホルモン治療は有用である。しかし,現行のわが国の健康保険適用での投与量は初期6か月間は補充量としての0.175mg/kg/週しか認められず,再申請にて薬用量である0.35 mg/kg/週への増量が許可されている。欧米に比して投与量が少ないことも効果が得られにくい一因である。増量基準の申請を促すために患児を取り扱う腎小児科医の認識を啓発する必要もある。また,医療資源の活用として,透析児での成長ホルモン治療は身体障害者1級として医療費免除の恩恵にあずかれるが,保存期慢性腎不全児は小児慢性特定疾患扱いとなるので,外来での治療は都市部在住者を除き補助対象とはならず,健康保険利用の高額医療でしか治療できない制限を受けることが最大の障壁である。
3. 軟骨無形成症における成長ホルモンの効果【登録数について】
2003年11月末日での登録件数は504件(男246、女258)であり、新規の登録は22件であった。2001年以降、新規登録は20-40件の間に安定しており今後も年間登録数はこの範囲で安定して推移するものと考えられる。
【治療効果】
身長のSDスコアは治療年数が増えるほど改善を示し、4年間の治療で0.5SDの改善を示した。
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しかし5年目以降になると身長SDスコアーはむしろ低下を示すことから、次に思春期の身長増加について検討を加えた。
このことは軟骨無形成症ではあきらかな思春期の成長促進現象が認められないことを表している。従って、軟骨無形成症患者の最終身長をより改善するためには、思春期発来の管理が重要であると考えられる。
4. Severe short stature with severe GHD に関するアンケート結果【緒言】
GHの分泌に関与する遺伝子異常による成長障害においては際だった低身長(Severe short stature)と著明なGH分泌不全(Severe GH deficiency)が見られる。 即ち、これらの症例においては通常身長SDSは-4から-4.5以下で、従来のGH分泌負荷試験に対するGHの頂値が4以下とされている。
我々は成長科学協会に登録された特発性かつ性腺抑制療法を受けていないGH分泌不全性低身長症の中でこの様な“Severe short stature with severe GH deficiency (GHD)”例の発生頻度が27,088例中139例(0.5%)と僅かで、臨床的にはこの様な成長障害が生後に生じており、その成長障害の病因がその他の症例とは異なっている可能性があること、および成長ホルモンの治療効果は良好であるが最終身長は最も低値に留まることを報告した。
今回はこの様なSevere short stature with severe GHD 139例全例の主治医にアンケートを行い、その病因と病態および臨床的特徴につき検討を加えた。
【対象と方法】
1986年3月から1998年1月までに成長科学協会に登録された非器質性で性腺抑制療法を受けていない27,088例の特発性GH欠損による低身長のうち身長が標準の-4SD以下でしかも2種以上のGH負荷試験に対するGHの頂値が全て2μg/L未満のSevere short stature with severe GHD 139例に関し各々の主治医に以下のアンケートを行った。1)出生後12ヶ月、24ヶ月後の身長、2)軟骨無形成症、軟骨低形成症、ターナー症候群、慢性腎不全、遺伝子異常による低身長、および成長障害を来すその他の疾患の有無、3)血族結婚の有無、4)下垂体部MRIによる下垂体の萎縮、下垂体茎の離断、異所性後葉等病的所見の有無、5)GH以外に欠落している下垂体ホルモン、6)ホルモン補充療法の有無、7)診断時および現在の内分泌データー、8)GH分泌に関与する遺伝子検索の希望の有無
【結果】
139例全例の主治医にアンケートを行ったところ、56例につき回答が得られた。このうち解析可能な症例は51例であった。
1) Severe short stature with severe GHD51例における出生後12ヶ月、24ヶ月後の身長
出生時の身長、体重にはSevere short stature with severe GHD (Severe caseと略す)とその他の大多数の群との間に有意差がなかったが、これらのSevere caseでは身長SDが生後12ヶ月時-3.01±0.40 (SEM,N=32)、24ヶ月時-3.92±0.41 (SEM,N=21)と既に著明に低値であった。
2) 51例のVery severe short stature with severe GHDの病因別内訳と特発性GH分泌不全性低身長症の特徴
51例中特発性GH分泌不全性低身長症が44例、GH-1遺伝子異常が3例、pit-1遺伝子異常が2例、軟骨無形成症が2例であった。軟骨低形成症、ターナー症候群、慢性腎不全等は含まれていなかった。
なお、特発性GH分泌不全性低身長症44例中男児は24例、女児は20例であった。このうち25例が下垂体部のMRI検査を施行され、21例に異常所見が見られた。21例中下垂体の萎縮が20例、下垂体茎の“断裂”が13例、異所性後葉が13例、下垂体茎の狭小が1例で見られた。また、13例において下垂体萎縮と下垂体茎の“断裂”(ないし狭小)および異所性後葉が同時に認められた。
MRIで下垂体部に異常の認められた21例中11例が骨盤位分娩で、このうち5例が仮死分娩であった。興味深いことに、MRIで下垂体部に異常のなかった4例中2例が骨盤位分娩かつ仮死分娩であった。
なお、7例の遺伝子異常例のなかで5例がMRIを施行され、うち3例のGH-1異常症では下垂体部の異常は認められなかったが、2例のpit-1遺伝子異常例で下垂体の萎縮が見られ、このうち1例は下垂体茎の狭小化も認められた。
3) 血族結婚の有無
51例のVery severe short stature with severe GHDには特発性や遺伝子異常を含め、血族結婚例は皆無であった。
4) 特発性GH分泌不全性低身長症44例における下垂体ホルモン欠落状況
特発性44例のなかでGH単独欠損は12例であった。GH以外のホルモン欠損合併例は32例で単独欠損例を上回った。その内訳はLH,FSH,TSH欠損が9例と最も多く、LH,FSHが6例、LH,FSH,TSH,ACTHが4例、LH,FSH,TSH,ACTH,ADHが3例、TSHが2例、LH,FSH,PRLが2例、LH,FSH,TSH,ACTH,PRLが2例、LH,FSH,ACTHが1例、LH,FSH,TSH,PRLが1例、LH,FSH,TSH,ACTH,PRL,ADHが1例、ADHが1例であった。
これらの下垂体ホルモン複合欠損例ではACTH,TSH,ADH欠損例にはグルココルチコイド、チラーヂンSおよびデスモプレッシンが補充されていた。一方、LH,FSH欠損例においては思春期年齢以降の例ではHCG,HMGの併用ないしはテストステロンデポー剤が用いられていた。
5) 診断時および現在の内分泌データー
診断時と現在の内分泌データーに関しては全例から下垂体ホルモンの全てについて報告がなされた訳ではないが、報告例のなかに加齢とともに他のホルモンの脱落が加わった症例は1例も見られなかった。
6) GH分泌に関与する遺伝子検索の希望の有無
51例中GH分泌に関与する遺伝子の検索希望者は4例であった。いずれも特発性かつ複合欠損の症例であった(#1、TSH & ACTH; #2、LH,FSH,TSH,ACTH,PRL;#3、LH,FSH,TSH,ACTH;#4、LH,FSH,PRL).
出生時の胎位は全例頭位であったが#1だけが仮死分娩であった。MRIを施行された3例(#1?#3)全例に下垂体の萎縮が見られ、さらに#1と#2には下垂体茎の“断裂”が認められた。#4はGH-1遺伝子が検索されたが異常は認められなかった。
【考案】
Very severe short stature with severe GH Deficiency (GHD)139例の主治医にアンケートを行い、51例の有効回答を得た。
これらの症例では生後12ヶ月と24ヶ月の身長が既に-3SD以下となっており、出生時の身長、体重には大多数を占める他の群と有意差が無かった事実より、Severe caseの成長障害は出生直後より生じているものと考えられた。
これら51例の中で、特発性GH分泌不全性身長症が44例と多数を占め、その内32例(73%)が、下垂体ホルモンの複合欠損であった。複合欠損の中で、GH以外に最も欠損の頻度が高いホルモンはゴナドトロピン(LH,FSH:29/32=91%)で、TSH(22/32=69%)、ACTH(11/32=34%)がこれに次いでいた。
遺伝子異常による低身長症は7例で、その内訳はGH-1遺伝子異常が3例、pit-1遺伝子異常が2例、軟骨無形成症が2例であった。これら遺伝子異常例を含め、51例中両親が血族結婚であるケースは1例もなかった。
低身長に関係した遺伝子の検索を希望する症例は4例のみで、他の40例においては主治医が臨床像や内分泌データ、画像診断等より遺伝子異常の可能性が低いと判断したために遺伝子検索の希望無しとしたものと考えられる。従って、これら4例が遺伝子異常による低身長であったと仮定しても低身長全体における遺伝子異常による割合は0.04%(11/27,088)と極めて低いものと推定される。
しかしながら、MRIが施行された25例の特発性の症例中21例に下垂体部の異常所見が見られ、このうち10例では分娩異常を伴っていなかった。この様な症例に何故下垂体部の形態学的異常が発生したのか今後の検討が待たれる。
以上、成長科学協会に登録された特発性かつ性腺抑制療法を受けていないGH分泌不全性低身長症の中でSevere short stature with severe GH deficiency (GHD)例の発生頻度は27,088例中139例(0.5%)と僅かであるが、この様なSevere caseの中でGHに関係した遺伝子異常の頻度は全体の0.04%以下と非常に低いことが推定された。これらSevere caseの成長障害は出生後の早期に生じているものと考えられ、最終身長の改善のためにはより早期の診断と治療が望まれる。なお、軟骨無形成症以外の遺伝子異常が疑われる時はGH-1やpit-1遺伝子の検索が重要と考えられた。