指定課題研究報告
子宮内発育遅延(IUGR)、低身長児の広汎性発達障害、注意欠陥/多動性障害に占める割合と認知、行動の問題について
沖 潤一、大日向純子、雨宮 聡、山本美智雄、荒木章子、林 時仲、田中 肇、 伊藤善也、藤枝憲二
Intrauterine growth retardation (子宮内発育遅延:IUGR)や低身長では、協調運動障害、算数障害、不安やうつ状態、注意力の障害といった学習や行動の問題を合併しやすいことが報告されている1−3)。我々は3歳児健診から言葉・対人関係の問題で紹介された幼児を長期観察しており4)、今回の研究の目的は、幼児期に言語発達の遅れや多動で受診した注意欠陥/多動性障害児および広汎性発達障害におけるIUGR、低身長児の割合を明らかにすることである。
【緒言】
さらに、IUGR児、低身長児の就学状況、学校での問題行動、知能検査の結果について詳細に検討したので合わせて報告する。
1990年1月から1999年12月までの10年間に、言葉の発達の遅れもしくは多動のため、主に3歳児健診から紹介された正期産児157例を対象とした。対象患児の性別は男子が132例、女子が25例であり、初診時の平均年齢±SDは3.4±0.9歳だった。37週未満の早産児、1,500g未満の極低出生時体重児、明らかな視聴覚障害、染色体異常症候群、脳性麻痺、知的障害児は、今回の検討から除外した。
【対象と方法】
対象とした157例を知能検査、DSM-IVに基づいて、以下の3群に分け、在胎週数、出生時体重、初診時の体重、身長を検討した。
A群:発達性言語障害のみで小学校入学までにほぼcatch upした群。男子13例、女子3例の計16例で、初診時の年齢は3.4±0.7歳である。
B群:発達性言語障害と診断したが、学習障害もしくは注意欠陥/多動性障害を併存していた群。男子59例、女子8例の計67例で、初診時の年齢は3.6±0.8歳である。
C群:対人関係や固執性といった特徴を有する広汎性発達障害。男子60例、女子14例の計74例で、初診時の年齢は3.4±0.9歳である。
A〜C群の初診時の年齢、出生時体重、在胎週数の分布、人種に有意の差はなく、各群におけるIUGR、低身長の割合を検討した。なお、IUGR児は在胎週数から期待される出生時体重(胎児発育曲線、厚生省心身障害研究、1998)の10パーセンタイル未満の児とし、低身長は平成12年度乳幼児身体発育調査報告書(厚生労働省)から得られた標準身長の−2SD以下とした。
さらに、低身長児においてWechslerの知能検査、就学状況、学校における心理、行動の問題点について検討した。
【結果】1. A群:発達性言語障害のみでcatch upした群
この群の16例において、小学校就学前に行ったWPPSIの平均IQは、FSIQ 104.0±24.1、言語性IQ 96.3±23.6、動作性IQ 111.3±17.6だった。幼児期には9例(56%)で構音障害があったが、就学前にはほぼ改善し、小学校入学後も言語治療教室を併用していたのは2例のみだった。
16例の在胎週数・出生時体重は、37〜41週、2,474〜3,742gであり、いずれも相当体重(appropriate for date:AFD)で生まれていた。また、初診時(2.1〜4.7歳)の身長は、いずれも±2SD以内であり、低身長はいなかった。
2.B群:注意欠陥/多動性障害もしくは学習障害児の群
幼児期に言語発達の遅れ、もしくは多動があり、就学後も不注意、多動、衝動性といった行動の問題、算数障害や文章の読み取り障害が明らかとなった例は、男子59例、女子8例の計67例である。この67例の分類は、多動を伴わない学習障害が16例(男子11例、女子5例)、学習障害を伴わない注意欠陥/多動性障害が15例(すべて男子)、注意欠陥/多動性障害と学習障害の併存例が36例(男子33例、女子3例)だった。
在胎週数、出生時体重の関連では、図1のように67例中4例(6.0%)がIUGRで出生した。この4例中1例が双胎で母に妊娠中毒症があった以外、特記すべき母体の疾患はなかった。また、4例とも初診時の身長・体重は、±2SD以内と追いついていた。
3歳時に低身長を認めたのは67例中2例(3.0%)であり、この2例とも成長ホルモン分泌不全性低身長だった。この2例について詳細を述べる。
症例B-1.17歳女子.成長ホルモン分泌不全性低身長,注意欠陥/多動性障害、学習障害.
29歳の父、30歳の母の第2子であり、妊娠中は貧血があり鉄剤を内服していた以外は特記すべきことなかった。37週、帝王切開で生まれ、出生時体重は2,740gだった。仮死があり、5分のアプガースコアは3点で、短期間ではあるが気管内挿管を必要とした。一人歩きは1歳4カ月と遅く、4歳になってようやく会話ができるようになった。また、身長も3歳半までは−2SDに沿っていたが、4歳以降はさらに身長増加率が低下し、5歳6カ月では身長96.4cm(−3.6SD)、体重13.7kgだった。成長ホルモン分泌不全性低身長と診断し、6歳から成長ホルモンによる治療を開始した。6歳時に行なったWPPSIではFSIQが76、言語性IQが89、動作性IQが71と境界領域のIQであり、「ウサギ」が「ウチャギ」、「シッポ」が「キッポ」といった構音障害があった。また、検査中も落ち着きがなく、すぐ飽きてしまった。
小中学校は通常学級で教育を受けたが、成績は下位で授業についていけないことが多かった。高等学校は、小規模校に入学したが、相手の気持ちを考えずに物を言ったりするため、級友とのトラブルが多く、仲間はずれになりがちである。
症例B-2.11歳男子.成長ホルモン分泌不全性低身長,注意欠陥/多動性障害,視覚認知面の学習障害.
父28歳、母22歳の第1子で、子宮が小さく骨盤位のため、38週0日に帝王切開で生まれた。出生時の体重は3,025g、身長は46cmであり、仮死はなかった。頚定が6カ月と遅く、一人歩きは1歳3カ月、2歳を過ぎた頃から多動や低身長があった。5歳5カ月の身長が102.3cm、体重が15.7kgであり、成長ホルモン分泌不全性低身長と診断され、ヒト成長ホルモン連日10.5単位の皮下注で治療を開始した。
成長ホルモン治療後1年間で身長は8.2cm伸びたが、多動、攻撃的な性格には変化がなかった。小学校入学後も、落ち着かない、注意が散漫である、失敗を認めず他人のせいにするといった行動の問題が持続した。小学校高学年になると、クラス委員などで活躍する反面、他人から過ちを指摘されるとすぐ怒り出したりして級友とのトラブルが多い。7歳9カ月で施行したWISC-Rでは、FSIQ 116, 言語性IQ 129と高い値だったが、動作性IQは98と低く31ポイントの解離があった。なお、視覚認知能を反映する下位項目の評価点が、積木模様7、組合せ6と低かった。
3.C群:広汎性発達障害児の群
広汎性発達障害74例(男子60例、女子14例)のDSM-IVによる分類は、自閉性障害45例(男子38例、女子7例)、アスペルガー障害3例(すべて男子)、特定不能の広汎性発達障害26例(男子21例、女子5例)だった。在胎週数と出生時体重との関連では、74例中IUGR児は5例(6.8%)であり、AFD児は69例(93.2%)だった。
IUGR児5例の画像所見では、1例に左中頭蓋窩のくも膜嚢胞を認めた。この例の初診時(4.1歳)の身長・体重は、110.0cm、23.5kgであり身体発育は追いついていた。しかし、幼児期から多動や自傷が顕著であり、知能検査は測定不能だった。他の4例の結果は、総IQは83〜96であり、言語性IQが68〜94と動作性IQ90〜127に比べ低かった。AFDで生まれた他の広汎性発達障害児の知能検査に比べて有意の差はなかった。
IUGR児5例中、3歳時も身長が−2.0SD以下だったのは1例であり、C群(広汎性発達障害児)全体でも初診時に低身長があったのはこの1例のみだった。このIUGR、低身長児について詳細を述べる。
症例C-1:5歳2カ月,女子.低身長,広汎性発達障害.
30歳の父、27歳の母の第1子、在胎40週3日、頭位分娩で出生した。妊娠中特記すべきことなかったが、出生時の身長46cm、体重は2,636gとSFD児だった。頚定は4カ月、一人歩きは1歳3カ月であり、1歳6カ月の身長が73.5cmで、有意の単語がほとんどなかったため、近くの小児科医で経過観察されていた。3歳をすぎても二語文や会話にならず、数字に対するこだわりが目立ち、身長の伸びも不十分だった。3歳8カ月、身長89.2cm、体重11.3kgで受診し、脳の形態は異常なかったが、周囲に対する関心が乏しく、大きい、小さいといった概念が理解できない、マークや数字に対する固執性が強く、話し方も一本調子で会話が成立しなかったことから、非特異的な広汎性発達障害と診断した。染色体や甲状腺ホルモンの異常はなかったが、成長ホルモン分泌に関しては現在検索中である。
在胎週数と出生時体重との関連、低身長児における行動の問題に関する論文は多い。代表的なものとして、Walter1)はIUGRでは微細な運動障害、学習困難、多動、注意力欠如といった問題を抱える例が多いと報告し、Stablerら3)は成長ホルモン分泌不全の有無にかかわらず、低身長児では多動や読み書き・計算といった学習に問題を有する例が多いことを明らかにしている。また、Hultmanら5)は、自閉症の危険因子としてアプガースコアが低い、在胎週数に比べ体重が少ないといった因子が重要だったと報告している。
【考案】
これらの報告を受け、言葉発達の遅れや多動を指摘された幼児においてIUGRや低身長の占める割合を検討した。対象患者157例において、IUGRは9例(6%)であり、低身長は3例(2%)だった。これらの頻度は高いものではないが、catch upしたA群においてIUGRや低身長がいなかった点が重要である。すなわち、IUGRや低身長は、注意欠陥/多動性障害や広汎性発達障害のなかで占める割合はさほど大きなものではないが、言語発達の遅れや多動児に併存していた場合は、就学後の学習困難や対人関係問題の危険因子となりうることが示唆された。
Stablerら3)が述べているように、成長ホルモン自体は算数などの学習能力を改善させるわけではないが、言葉発達の遅れや多動を有した幼児にIUGRがあったり、低身長を併存したりしていた場合は、定期的に学習、行動面を観察し、必要に応じて適切なアドバイスを行うべきである。
【結論】
- 言葉の発達の遅れや多動を主訴として受診した幼児157例を、発達性言語障害児のみの群(16例)、注意欠陥/多動性障害もしくは学習障害児の群(67例)、広汎性発達障害児の群(74例)に分けてIUGR、低身長の割合を検討した。
- 発達性言語障害のみの群では、IUGRも低身長もいなかった。これに対し、注意欠陥/多動性障害もしくは学習障害群ではIUGRが4例(6.0%)、低身長が2例(3.0%)であり、2例とも成長ホルモン分泌不全性低身長だった。また、広汎性発達障害の群では、IUGRが5例(6.8%)、低身長が1例(1.4%)であり、IUGRの1例でくも膜嚢胞を認めた。
- 注意欠陥/多動性障害、学習障害、広汎性発達障害において、IUGRや低身長の占める割合は多くはなかった。しかし、言語の遅れで受診した幼児で、IUGRだったり低身長を認めた例では、くも膜嚢胞を認めたり友人とのトラブルが多かったことから、脳の画像診断を行い、就学後の学習、行動、対人関係の問題についてより注意深い経過観察が必要である。
【文献】
1) Walther FJ. Growth and development of term disproportionate small-for-gestational age infants at the age of 7 years. Early Human Development 1988; 18: 1-11 2) Veelken N, Stollhoff K, Claussen M. Development and perinatal risk factors of very low-birth-weight infants. Small versus appropriate for gestational age. Neuropediatrics 1992; 23: 102-107 3) Stabler B, Siegel PT, Clopper RR, Stoppani CE, Compton PG, Underwood LE. Behavior change after growth hormone treatment of children with short stature. J Pediatr 1998; 133: 366-373 4) 沖 潤一,長 和彦.言語の発達の遅れを主訴として受診した幼児の疾病分類・知的発達・就学状況に関する研究.北海道医学雑誌1996;71:637-650 5) Hultman CM, Sparen P, Cnattingius S. Perinatal risk factors for infantile autism. Epidemiology 2002; 13: 417-423