指定課題研究報告
成人GH欠乏症例の簡易内臓脂肪評価


兵庫県立看護大学栄養代謝学
神戸大学大学院内分泌代謝、神経、血液腫瘍内科学
加治秀介1、2、桐村智子、岸本正彦、千原和夫


序論

 成人GH欠乏症(AGHD)は内臓脂肪を中心とした体脂肪組成の増加、筋量、骨量など除脂肪体重の減少、高脂血症などに特徴づけられる症候群として捉えられるようになった1, 2。諸外国では本症による動脈硬化症の進展に伴い血管障害による死亡率の増加が報告され3-5、GH補充療法も承認されている。 我々もAGHDの内頸動脈エコーの結果、内膜・中膜複合厚の肥厚を認め、特に小児発症のAGHDで顕著であることを報告している6
 しかし本邦では遺伝的背景、環境因子が欧米と異なり、GH欠乏の血管障害への影響の実態は検討途上にある。 我々が行った本邦でのAGHDの実態調査において動脈硬化の惹起要因として重要な内臓脂肪面積(VFA)の測定はまだ十分に普及していない7。この理由としてVFA測定のゴールデンスタンダードが臍レベルでのCTによる計測が必要となる点にある。 最近VFAを年齢、性、身長、体重、ウエスト周囲径(W値)などの複数の体格指数を入力し、上半身の体脂肪率をインピーダンス測定することで、間接的にVFAを推定する内臓脂肪計が開発されている。 そこで今回この内臓脂肪計を利用して、AGHD女性例のVFAないし関連パラメーターを性、年齢を対応させた対照群のそれと比較検討した。


対象と方法

 対象は神戸大学病院内分泌代謝内科外来通院中のAGHDの女性21例である(表1)。下垂体機能低下症の病因としては19例が視床下部ないし下垂体腫瘍の術後ないし放射線照射後で、Sheehan症候群が1例、特発性が1例であった。 全例が多ホルモン欠損の下垂体機能低下症である。副腎系、甲状腺系は17例で欠損がみられ、全例で補充されている。性腺系は15例に欠損があり、閉経期以前の10例でエストロゲン、プロゲステロンが補充されている。抗利尿ホルモン欠損は4例で、全例デスモプレシンが補充されている。なお全例にGH欠損があるが一時期臨床試験でGHを補充した症例は2例である。 GH欠損の判定には主としてインスリン低血糖試験、場合によってはL-dopa, arginine, GHRH試験などでGHピーク値が3ng/ml以下とした。 
 AGHD例の血液生化学検査の平均値は総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪が軽度高値で、HDLコレステロール、空腹時血糖、尿酸値は正常範囲であった。 
 一方、任意に体脂肪測定に参加した性、年齢の対応する健常25名を対照群とした。VFAの推定には内臓脂肪計DF515 (Yamato)を用いた。本測定計はW値を含む体格指数と生体インピーダンス測定値などを用いて、単一変数で計算された従来のVFAの推定より腹部CT撮影のデータとの相関を高めた方式であり、相関係数は男性で0.902、女性で0.884とされる。説明と同意の後、両群のVFAを本内臓脂肪計で測定した。
 統計学的に2群間の有意差の検定はノンパラメトリック検定(Wilcoxonの符号順位検定)で解析した。また症例と対照群を合わせた46例で各体脂肪関連指標間の相関係数を算出し相関性の有意検定を行った。さらに多変量解析によりVFAと各体脂肪関連指標との重相関を検討した。


結果

 AGHD女性の年齢は47.0±17.5歳で対照群の53.0±9.7歳に比しやや若年の傾向であったが有意差はなかった。身長は152.9±6.1 cmと対照群の156.1±5.9歳より低い傾向、逆に体重は56.7±8.4 kgと対照群の53.8±8.4 kgより重い傾向、したがってBMIは24.1±3.8と対照群の21.8±2.9より高い傾向を認めたがいずれも有意差は認めなかった。BMIが25以上の肥満例はAGHD女性では21例中7例に比し、対照群では25例中3例であった。 
 一方W値は76.4±9.7cmで対照の68.6±5.6cmより有意に高値であった(P<0.05)。 女性の内臓脂肪型肥満の基準である90 cm以上の例は21例中4例であったのに比し、対照群では25例中1例も認めなかった(P<0.05)。W値を身長で除した比(W/HT)は成人AGHD女性で0.50±0.062で 0.443±0.04の対照群より有意に高値であった(P<0.01)。 このW/HTが0.5以上であれば糖尿病をはじめ生活習慣病のリスクが増大するとされているが、AGHD女性では21例中8例に認め、対照群の25例中2例より有意に比率が高かった(P<0.05)。
 内臓脂肪計で測定したVFAはAGHD女性で68.5±23.2 cuで対照群の54.6±20.8 cuより高値の傾向を示した。VFAが100 cu以上の内臓脂肪型肥満と考えられる症例は21例中3例であったのに対し、対照群では25例中1例で、AGHD女性群で割合が高い傾向を認めた。
 症例と対照の計46例における各種体脂肪関連指標の相関係数を表3に示した。いずれの間にも有意の正相関を認め、相関係数が最も高かったのはW/HTとW値で、次に W/HTとVFA, VFAとW値, BMIと%fatの順に両指標間の相関係数が高かった。VFAについてW/HT, W値, BMI, %fatの4関連指標を独立変数として重回帰分析したところW/HTとBMIが有意の重相関を示した。


考察

 内臓脂肪量の評価方法には、従来からのCTによる直接的な画像による面積測定に加えて、簡便な評価指標としてW値の測定がある。今回成人下垂体機能低下症、特にGH以外の欠損ホルモンが概ね補充されているAGHD女性例においてW値が性、年齢を対応させた健常対照群に比し有意に高値であったこと、女性の内臓脂肪型肥満の基準である90 cm以上の例数の割合が有意に高いことが示された。これはAGHDでVFAが増加することを臍レベルCTで確認した報告に一致した1,2。また生活習慣病のリスク評価に良い指標とされるW値と身長の比W/HTを比較するとAGHD女性でやはり対照群より高く、その有意性はより顕著であった。このことは健常対照と比較して下垂体機能低下女性で心血管病への頻度が高く、心血管リスクが高いとする報告に一致した4。ただし我が国の実態調査では下垂体機能低下症女性例のGH欠乏例と非欠乏例を比較したが明らかな心血管リスクの差はみられなかった7
 さらに今回用いたインピーダンスによる体脂肪率測定と各種体格指数からVFAを推測する内臓脂肪計による評価でもAGHD女性例で高い傾向を示した。既にVFAを臍レベルCTにより測定した結果と、本内臓脂肪計との結果を比較すると高い相関性を示すことが確認されているが、今回の検討でもW/HTやW値と高い相関性を示したことから、簡便にVFAを推定することは可能であると考えられた。また本内臓脂肪計で測定されたVFAは多変量解析によりW/HTとBMIに有意の重相関を認めたことから、内臓脂肪計や臍レベルでのCT測定が困難な時は内臓脂肪量の指標としてW/HTとBMIを組み合わせた結果が参考になると考えられた。今回は女性例を解析したが内臓脂肪型肥満は男性でより問題となるので、男性例でも例数を重ねて解析を予定している。
 今後は直接的にVFAをインピーダンス法で測定できる内臓脂肪計も現在開発されつつあり、精度が高い簡便な計測が可能となれば本症での内臓脂肪計測がより普及するものと期待される。
 以上、簡便な内臓脂肪量評価でもAGHD症例でのVFAの増加頻度が高いことが明らかとなった。今後さらに直接的なインピーダンス法による内臓脂肪計が利用可能となることで本症でのVFA計測の普及が期待される。


謝辞

平成14年度の研究助成を頂きました成長科学協会に深謝します。


引用文献

  1. De Boer H, Blok GJ, Van der Veen EA (1995) Clinical aspects of growth hormone deficiency in adults. Endocr Rev 16 : 63-86.

  2. Meling TR, Nylen ES (1996) Growth hormone deficiency in adults : A review. Am J Med Sci 311 : 153-166.

  3. Rosen T, Bengtsson BA (1990) Premature mortality due to cardiovascular disease in hypopituitarism. Lancet 336 : 285-288.

  4. . Bulow B, Hagmar L, Eskilsson J, Erfurth M (2000) Hypopituitary females have a high incidence of cardiovascular morbidity and an increased prevalence of cardiovascular risk factors. J Clin Endocrinol Metab 85 : 574-584.

  5. Tomlinson JW, Holden N, Hills RK, Wheatley K, Clayton RN, Bates AS, Sheppard MC, Stewart PM (2001) Association between premature mortality and hypopituitarism. West Midlands Prospective Hypopituitary Study Group Lancet 357: 425-431

  6. Murata M, Kaji H, Mizuno I, Sakurai T, Iida K, Okimura Y, Chihara K (2003) A study of carotid intima-media thickness in growth hormone (GH)-deficient Japanese adults during onset among adults and children. European Journal of Endocrinology 148, 333-338

  7. Kaji H, Sakurai T, Iguchi G, Murata , Kishimoto M, Yoshioka S, Iida K, Okimura Y, Chihara K (2002) Adult growth hormone deficiency in Japan : results of investigation by questionnaire. Endocrine Journal 49: 597-604








【目次へ戻る】