指定課題研究報告

皮下、内臓脂肪組織のインスリン感受性制御にはたす成長ホルモンの作用
−特にLeptin、TNF-α分泌に及ぼす役割−



東邦大学医学部付属佐倉病院
糖尿病・内分泌・代謝センター伊藤嘉晃、白井厚治


【はじめに】

 成長ホルモン(GH)は分泌過剰により糖尿病を誘発することが知られているが、欠損状態においてはインスリン抵抗性を増すことが知られ、GH自体にインスリン感受性を増す作用もあると考えられている。しかし、そのメカニズムは充分明らかでない。
 我々は、GHが内臓蓄積脂肪の分解をより特異的に促進し、内臓脂肪蓄積抑制作用があることを報告している(1)。一方、皮下脂肪組織に対して、GHは脂肪細胞増殖を促進し皮下脂肪蓄積に促進的な作用を持つと推測している(2)。即ち、GHは内臓脂肪と皮下脂肪組織に対して異なる作用を持っている。
 近年、脂肪細胞から、多くのサイトカイン、酵素が分泌されていることが知られ、特にインスリン感受性調節因子が分泌されていることが明らかにされている。それらの代表的なものにleptin、およびTNF-αがある。前者はインスリン感受性を増し、後者はインスリン抵抗性を増す因子であることが知られている。
 そこで今回、GHの皮下および内臓脂肪組織からの脂肪動員作用と、leptin、TNF-α分泌動態、及び、それらの関わりを検討した。


【方法】

 動物:ウィスター系ラット16週令、雄を用い、皮下脂肪は鼠径部皮下組織から、内臓脂肪は腸間膜から採取した。脂肪組織は、100mgに細切、12ウェルプレート(Falcon)に入れ、1mlの20 mM Tris HCl, pH7.4, 4 % fatty acid-free bovine serum albumin-DMEM 1 ml下で浮遊させインキュベーションした。
 脂肪動員作用:各脂肪組織100 mgを1 ml の20 mM Tris HCl, pH7.4, 4 % fatty acid-free bovine serum albumin-DMEMに浮遊させ、これにrecombinant human growth hormone (rhGH、Pharmacia & Upjohn製 ジェノトロピン5.3mg)0 - 100 ng/mlを添加し、37℃で、ゆっくりと震盪し、8時間反応後、上清100μl中の脂肪酸量をNEFA kit-U(常光)を用い測定した。また、leptin量、TNF-α量を測定した。
 Leptin測定は、メディウムを用い、rat leptin ELISAキット(矢内原研究所)で測定した。TNF-α分泌量の測定は、脂肪組織100mgを超音波処理後、pepstatinで処理、15,000Gで遠心分離した上清100μlを用い、rat TNF-α ELISAキット(矢内原研究所)で測定した。


【結果】

1. 脂肪動員
 rhGHによる脂肪組織からの脂肪動員作用について検討した(図1)。皮下脂肪組織では8時間後、メディウム中の脂肪酸はrhGH 100ng/mlまで添加しても増加を見なかった。一方、内臓脂肪組織においてはrhGH濃度依存的に促進がみられた(GH 0 VS 10ng/ml n.s.、GH 0 VS 50ng/ml P<0.01、GH 0 VS 100ng/ml P<0.05、GH 10 VS 50, 100ng/ml n.s.、GH 50 VS 100ng/ml n.s.)。

2.Leptin分泌
 rhGHによる脂肪組織からのleptin分泌をみた(図2)。皮下脂肪組織からは、内臓脂肪組織に比しleptin分泌量が多かった(皮下VS内臓:GH 0ng/ml n.s.、GH 10ng/ml n.s.、GH 50ng/ml n.s.、GH 100ng/ml P=0.0089)。rhGHを10〜100 ng/ml添加してもleptin分泌は、皮下ならびに内臓脂肪組織共に変化がみられなかった。

3.TNF-α分泌
 rhGHによる脂肪組織からのTNF-α分泌をみた(図3)。TNF-α分泌量は皮下脂肪組織からの方が、内臓脂肪組織に比し、有意に多かった(皮下VS内臓:GH 0ng/ml P=0.0004、GH 10ng/ml P<0.0001、GH 50ng/ml P<0.0001、GH 100ng/ml P<0.0001)。
 rhGHを加えると皮下脂肪組織では変化を認めなかったが、内臓脂肪組織ではrhGH濃度依存的にTNF-α分泌の減少がみられた(GH 0 VS 10ng/ml P=0.0087、GH 0 VS 50ng/ml P=0.0009、GH 0 VS 100ng/ml P=0.0006、GH 10 VS 50, 100ng/ml n.s.、GH 50 VS 100ng/ml n.s.)。


【考察と結論】

 GHの持つインスリン感受性促進作用の機序について検討した。
 Leptinは脂肪細胞から分泌され食欲を抑制する作用のあることが知られている。また、交感神経興奮作用、またインスリン感受性促進作用もあるとされている。今回、脂肪組織からのleptin分泌を見ると、皮下、内臓ともにGH添加で変化を認めなかった。GH欠損患者では、血清leptin値は上昇することが報告されている(3)。更に、GH欠損患者にGHを投与すると血清leptin値は低くなることも報告されている(4、5)。今回の結果から、皮下および内臓脂肪組織からのleptin分泌にGHの作用が認めらなかったことから、GH欠損でのleptin増加に対して直接の作用を持つ可能性は考えにくかった。
 TNF-αは脂肪細胞から分泌されるインスリン抵抗性の因子の一つとして知られている。TNF-αはGH欠損患者で高値を示すことが報告されている(6)。今回の検討では、内臓脂肪組織特異的に、GH濃度依存的にTNF-αの分泌抑制作用が認められた。従って、臨床的に観察されるGH欠損でのTNF-α増加は、GHによる脂肪組織からの抑制効果が欠如したためである可能性が考えられた。
 以上まとめると、今回の検討でGHのインスリン抵抗性改善効果は、内臓脂肪蓄積の減少によるのみならず、内臓脂肪からインスリン抵抗性の一因子であるTNF-αの分泌抑制を介している可能性が考えられた。



【文献】

1. Itoh Y, Shirai K, Miyashita Y, et al.: Preferential lipolysis in rat visceral adipose tissue by growth hormone. Endocrinol Metab. 1997, 4: 61-67.
2. 伊藤嘉晃, 白井厚治: ヒト内臓、および皮下脂肪組織由来fibroblast-like cellの増殖と成熟に及ぼす成長ホルモンの作用. 肥満研究 3(1): 29-34.
3. Fisker S, Vahl N, Hansen TB, et al.: Serum leptin is increased in growth hormone-deficient adults: relationship to body composition and effects of placebo-controlled growth hormone therapy for 1 year. Metabolism 1997, 46(7): 812-817.
4. Florkowski CM, Collier GR, Zimmet PZ, et al.: Low-dose growth hormone replacement lowers plasma leptin and fat stores without affecting body mass index in adults with growth hormone deficiency. Clin Endocrinol (Oxf) 1996, 45(6): 769-773.
5. Randeva HS, Murray RD, Lewandowski KC, et al.: Differential effects of GH replacement on the components of the leptin system in GH-deficient individuals. J Clin Endocrinol Metab 2002, 87(2): 798-804
6. Bulow B, Ahren B, Erfurth EM: Elevated leptin and tumor necrosis factor-alpha per unit fat mass in hypopituitary women without growth hormone treatment. Eur J Endoclinol 2001 145(6): 737-742.







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