指定課題研究報告
思春期男子のボディイメージに関する研究
主任研究者 大山建司 渡邊タミ子 藤田佑子 鈴木里美 栗岩瑞生 (山梨医科大学臨床看護学講座)
T.緒言
ボディイメージは幼児期から徐々に形成され、二次性徴が現れる思春期から意識されるようになる。二次性徴は自己を見つめるきっかけとなり、現実の自分と理想の自分の間の葛藤を克服することによって自己受容がなされていくと考えられる。そのため、変化しつつある身体に対応して、自己のボディイメージを獲得するということは、思春期における重要な課題と考えられる。われわれは女子のボディイメージに関してすでに報告しており1~3)、本研究では、思春期男子の身体認識や身体部位・機能に対する満足度を明らかにするとともに、男女のボディイメージを比較検討することを目的とする。
U.対象
山梨県下の中学校の男子108名、高校の男子76名、大学の男子38名、総計222名。
V.方法
独自に作成した調査票は、現在と理想の身長・体重、体型認識、体型満足度、1日に鏡を見る回数などを自己記入式のアンケートで行った。体型認識は「1:太っている〜5:やせている」、体型満足度は「1:満足〜5:不満足」の5段階評価とした。また、身体部位および身体機能に対する満足度を測定するために、Secord(1953)らが開発したボディカセクシステスト(以下BCテスト)を用いた4)。これは、48項目の身体部位・機能に対し「1:満足〜5:不満足」の5段階で自己評価するものである。さらに視覚的な体型認識を評価するために、Bell(1986)らが考案したシルエットチャート法を参考に用いた5)。この方法は、肥満度の異なる8つのシルエットを使用し、「現在の体型」「理想の体型」に近いシルエットを選択するものである。なお、シルエットはBellらが用いた女子のシルエットを参考に、男子のシルエットを作成した。
分析は、現在と理想の身長・体重・BMIの相関はPearsonの積率相関係数、BMIと体型認識、体型満足度の相関はSpearmanの順位相関係数を用いた。質問紙の各項目における各母集団分布の差の検定はKruskal-Wallisの検定、2群の母集団分布の差の検定はMann-WhitneyのU検定を用いた。
W.結果
1.調査票
BMIと体型認識の関係は、全学年で強い相関を認め(p<0.01)、BMIが大きいほど「太っている」と認識していた。BMIと体型満足度の関係は、中学と高校では相関を認めず、大学でのみ弱い相関を認めた(p<0.05)。また、体型認識および体型満足度については学年による違いを認めなかった。
身体への意識を知るために、1日に鏡を見る回数、男性化粧品への興味、洋服への興味、容姿への関心を調査した。中学では学年間で有意な差を認めたため、学年ごとに群分けして分析を行った。1日に鏡を見る回数は(図1)、学年が上がるにつれて多くなった(p<0.05)。特に中1から中2にかけて増加する傾向にあった。男性化粧品や洋服への興味、容姿への関心についても同様の結果がみられた(p<0.001)。また、容姿を変えるために実際に行動している人の行動内容は中2以上の回答者の約4割が「筋肉をつけるために運動をしている」と回答した。
現在と理想の身長・体重の相関を表1に示す。現在と理想の身長については、中2、中3で両身長の間に相関がみられず、その後高校で弱い相関、大学で比較的強い相関を認めた。現在と理想の身長の差は、中1で17.5cmと最大であったが、学年が上がるにつれて小さくなり、大学では3.9cmとなった。体重についても同様の傾向がみられた。
2.BCテスト
BCテストに関しても、中学において学年間での有意な差を認めたため、中学は学年ごとに群分けして分析を行った。身体部位・機能に関する48項目のうち、学年間で満足度に有意な変動を認めた項目は、「額」「目」「唇」「足」「姿勢」「食欲」「睡眠」(p<0.01)、「頭のかたち」「横顔」「まゆ毛」「耳」「歯」「ひざ」「ふくらはぎ」「胴体」「ウエスト」「ヒップ」「肩幅」「身長」「排泄」「運動」「声」「健康」(p<0.05)の23項目であり、頭部・顔面、体格、身体機能に関する項目に多くみられた。このうち、典型的な変動を示した「健康」に対する満足度の学年推移を図2に示す。男子では「満足」「やや満足」は、中2から中3にかけて減少し、高校で最低となり、大学で増加した。「不満足」「あまり満足でない」はほとんど増加せず、「どちらでもない」が高校で多かった。また、既に報告した女子のBCテスト結果のうち、典型的な変動を示した「ウエスト」に対する満足度の学年推移を図3に示す。女子では小5から小6にかけての変化が著しかったため、小学を学年ごとに分類して分析を行った。「満足」「やや満足」は、小5から小6にかけて著しく減少し、中学で最低となった。「不満足」「あまり満足でない」は、小5から中学にかけて学年が上がるにつれて著しく増加する傾向にあった。
3.シルエット
シルエットに関しても、既に報告した女子の結果と合わせて示す。現在の体型は、男子は中学、高校でシルエット3が最も多く、大学ではシルエット3〜5に分散していた。女子は全学年でシルエット4が最も多く、学年が上がるにつれて肥満度の高いシルエットを選択する傾向にあった。理想の体型は(図4)、男子は全学年でシルエット4が最も多く、学年が上がるにつれてその傾向が強まった。女子は全学年において半数以上がシルエット3で分散の小さい分布となっていた。
X.考察
ボディイメージとは、自分が自分の心の中に抱いている自分の姿であり、顔やスタイル、歩き方といったような自己に関する全ての部分を含み、非常に広い概念であると考える。そのボディイメージという大きな概念の中に、自分の身体はどのようであるかという認知と、こうありたいと思い描く理想像と、現実の自分と理想の自分の間で生み出される自己の身体に対する評価というものが含まれており、それは社会的な刺激や自己の価値観などの影響を受けながら徐々にできあがっていくと思われる。本研究では、自己の体型認識という主観的な判断を自分の体型の認知として評価し、どのような体型になりたいかといった理想の体型を理想像とし、自己の体型の認知と理想像のズレから生じると考えられる身体部位・機能に対する満足度を自己の身体の評価とし、身体への関心や認識、満足度といった意識され得る部分からボディイメージを検討した。
BMIと体型認識は全学年で強い相関を認め、男子では自己の体型をほぼ正確に評価していると考えられる。女子でも肥満度と体型認識は有意に相関しているという結果を既に報告したが1)、女子では学年が上がるにつれて、よりやせた体型を普通の体型と捉える傾向にあったのに対し、男子では体型認識および体型満足度に関して学年による違いを認めなかった。男子ではBMIと体型満足度の関連も薄く、肥満度が直接体型満足度に結びついている可能性は低いと考えられる。男子が容姿を変えるために実際に行っていることは、「筋肉をつけるために運動をしている」が比較的多く、男子では「筋肉質な体型」に対する関心が高いものと思われる。
男子の二次性徴は、睾丸の増大から始まり、外性器の肥大、性毛の出現から13歳頃に成長スパートを迎える6)。1日に鏡を見る回数は中1から中2にかけて増加する傾向にあり、その他の身体への意識に関する項目においても同様の傾向がみられ、身体に対する意識は中1から中2にかけて高まると考えられた。身体への意識が高まる時期は、二次性徴の出現時期とほぼ一致しており、二次性徴の出現は自己の身体に対する意識を高めるきっかけとなっていると考えられる。
BCテストにおいて、満足度に有意な変動を認めた項目は、男子では頭部・顔面に関する項目、体格に関する項目、「睡眠」「運動」といった身体機能に関する項目に多くみられた。女子では、特に「太もも」「脚」といった下肢に関する項目、「ウエスト」「ヒップ」といった躯幹に関する項目で学年による違いがみられている2,3)。男女で満足度が変化する項目が異なるのは、二次性徴による身体的変化が男女で異なることと関連していると考える。つまり、男子はより筋肉質な身体になり、女子は骨盤や腰に脂肪が蓄積するといった身体的変化を経験し、このことが身体部位の満足度の変化に影響を与えていると考えられる。満足度の変化については、男子は中2から中3にかけて「満足」「やや満足」が減少し、女子では小5から小6にかけて「満足」「やや満足」が著しく減少した。男女ともに二次性徴の出現に伴い身体への意識が高まり、自己の身体に意識が高まったことによって身体部位・機能に対する満足度が低下したと考えられる。二次性徴による身体的変化の受け止め方については、男子はBCテストにおいて「不満足」「あまり満足でない」は学年による明らかな変動を認めず、中学から高校にかけての「満足」「やや満足」の低下は「どちらでもない」の増加となっていた。これは、男子では二次性徴による身体的変化を不快なものとして受け止めていないということを示唆している。女子では、学年が上がるにつれて「満足」が減少するとともに「不満足」が著しく増加し、二次性徴による身体的変化を好ましくないものと受け止めていると考える。
シルエットでは、男子は現在の体型について、中学、高校でシルエット3が最も多く、大学ではシルエット3〜5に分散しており、学年が上がるにつれて肥満度の高いシルエットに分布する傾向にあった。理想の体型は、全学年でシルエット4が最も多かったが、学年が上がるにつれてその傾向は強まり、分散の小さい分布となった。これは、学年が上がるにつれて理想とする体型がシルエット4に集中し、現在の体型と理想の体型が類似してくることを示していると考えられる。女子でも現在の体型は学年が上がるにつれて肥満度の高いシルエットへと移行し、実際の体型の変化と一致していたが、理想の体型は全学年を通してシルエット3が最も多く、男子に比べて分散の小さい分布となっており、現在の体型と理想の体型は学年が上がるにつれてズレが大きくなった。二次性徴による身体的変化と理想体型の関係は、男子は学年が上がるにつれて徐々に現在と理想の体型が一致してくるが、女子では学年が上がるにつれて徐々に現在と理想の体型は乖離することを示している。
今回用いたシルエットについては、男子の身体認識を視覚的に把握するためのシルエット法が開発されていなかったため、Bellらが女子を対象に用いたシルエットを男子のシルエットに改良して用いた。この方法では身体認識を肥満度に基づいて測定しているが、男子の場合には肥満度のみならず筋肉の状態を含めた検討が必要であると考える。松橋はKretschmerとSheidonの体型分類を参考にして、男子の体型を脂肪の量と脂肪のつき方だけでなく、筋肉の量と筋肉のつき方をも考慮したシルエットの作成を試みており7、8)、男子ではこのようなシルエットを用いた検討も今後必要である。
男子の現在と理想の身長・体重の関係については、二次性徴が出現し身体への意識が高まる中2、中3では両身長・体重の間に相関がみられず、その後高校では弱い相関、大学では比較的強い相関がみられることから、中2頃には急激に変化していく自己の身体に違和感を感じ、現在と理想の体型が一致しにくいと考えられる。大学では現在と理想の差も小さくなってきており、徐々に現実の体型を受け入れ、現在と理想の体型が一致してくるものと推測される。また、BCテストにおいて、男子では大学で「満足」「やや満足」が増加する傾向にあったが、同時に「不満足」「あまり満足でない」も他の学年に比べて増加し、「どちらでもない」は少なかった。男子では大学頃には現在と理想の体型がほぼ一致し、また自己の身体に対する態度が明白になることから、この時期には自己の身体を受け入れ、自己のボディイメージを獲得しつつあると推測される。
Y.今後の課題
今回の調査では、身体への意識の高まりや身体部位の満足度の変化、現在と理想の体型の関係について明らかにすることができたと考えるが、自己の身体をどのように受容しているか、すなわち肯定的なボディイメージを獲得できているかに関してはなお明らかではなく、今後の検討課題であると考えている。
文献
1) 栗岩瑞生,他:思春期女性のボディ・イメージと体型に関する縦断的研究,小児保健研究,59(5):596-601,2000. 2) 大山建司,他:身体像,B女性の身体像,総合思春期学,清水凡生編,pp.50-57,診断と治療社,東京,2001. 3) 大山建司,他:思春期とボディイメージ,女性の身体像,思春期学,19(4):331-336,2001. 4) Secord P.F.,Jourard S.M.:The appraisal of Body-Cathexis:Body-Cathexis and the self,Journal of Consulting Psychology,17(5):343-347,1953. 5) Bell C.,Kirkpatrick S.W.,Rinn R.C.:Body image of anorexic,obese,and normal females,Journal of Clinical Psychology,42(3):431-439,1986. 6) 立花克彦:小児の成長,小児科学,白木和夫,前川喜平編,pp.18-21,医学書院,東京,1997. 7) 松橋有子:青年期の生き方と結婚,新保育学,pp.7-24,南山堂,東京,1999. 8) 松橋有子:身体像,C男性のボディイメージ,総合思春期学,清水凡生編,pp.58-63,診断と治療社,東京,2001.