指定課題研究報告
母子依存関係と小児の心理的社会的健康との関わりに関する研究
−小児の対人関係の歪みの「芽」を探る−


主任研究者 大山 建司
渡邉タミ子
鈴木 孝枝
横森 愛子
(山梨医科大学 臨床看護学講座)



1 緒言

 思春期は、親からの依存を離れ、自らの力と意志で親から徐々に独立していく過程である。それは、これまで親から受けてきた生活的ケアのみならず、価値体系、行動規範や基準などをも問い直し独立していく時期を意味する。その精神的発達は、対人関係に変化をもたらす。日本の親子関係においては、伝統的な相互依存性が、小児の対人関係に歪みの<芽>を生じさせる要素となりうると指摘されている1)2)。前回の調査報告3)では、長期的に医療管理下におかれ家庭療養を継続させながら外来に通院している慢性疾患をもつ小児の母子依存関係について検討した。健常な小児よりも全体的に依頼心が高く、親との希薄な関係は接触的欲求や攻撃性が高くなる傾向にあることが明らかになった。また,坂井ら4)による思春期児童の精神的ストレスと母親の養育タイプ,及び親子の対話について検討では、養育タイプの「民主型」、親との「対話良好群」の方が男女ともストレスが低い傾向にあることが報告されている。
 そこで,本研究の目的は、健康な小・中学生の母子依存関係と小児の心理的社会的健康状況等との関連性を把握し、小児期における対人関係の歪みの<芽>を探ることにある。



2 方法

1)対象:S県公立小学・中学校(10校)に通い、調査協力の得られた小学5・6年生、及び中学1年生から3年生とその親:計816組
2)方法:親子ペアで対応させて無記名の自記式質問紙調査法を実施した。その主な手続きとして教育委員会に研究趣旨を説明し了解を得た。次に、各学校長の許可を得て各学級担任を通して行った。予め調査のねらい・方法を書面で説明し、生徒に調査協力を依頼した。小・中学生の場合は、その場で回答を依頼した。また,親には、その子どもを通じて調査票を配布し、回答した調査票は、封筒に密封後学校へ留置にした。2週間位経て調査票を回収をした。
3)内容:小・中学生用は、(1)基本属性;@学年、A性別、(2)FlanaganによるQOL尺度を基に榎戸等5)が作成した家族生活の評価;6項目、「全くない」0点〜「よくある」3点の4件法、(3)親の「理解」・「愛情」に対する満足状況等
親用は、(1)基本属性、(2)母子依存関係の評価;I.Berg(1974)が開発したSADQ(Self-Administered Dependency Questionnaire 自記式依存質問紙法)を基に、我が国の学齢期の子どもの生活習慣等に合わせて倉本6)が邦訳・修正し、新たに攻撃性に関する項目を加えた日本版自記式質問紙(修正SADQ)を用いた。そのサブスケールは、4尺度で以下のとおりである。@「affection 接触欲求」(3項目);子どもの母親に対する身体的或いは情緒的接触欲求を示す。A「communication 相談欲求」(4項目);子どもの母親と言語的接触や援助欲求を示す。B「travel 同伴欲求」(3項目);外出時に子どもが母親と共に行動したい欲求を示す。C「aggression 攻撃的言動」(3項目);子どもが母親に対して責めたり執拗な要求などの攻撃的言動を示す。この4尺度の回答法は、5件法で「1週に1回以下、全くなし」0点、「1週に1回位」1点、「1週に1回から1日に1回の間」2点、「1日に1回位」3点、「1日に1回以上」4点とした。なお、この回答の基準は、過去3ヶ月間の学期中における典型的な1週間で、実際的に示された子どもの行動頻度に基づいたものであることを前提とした。それぞれを得点化し、高い得点ほど母親への依存度が高いことを示した。但し,「travel」は、設問内容から得点を反転させて得点化を図った。(3)親からみた子どもの心理的社会的健康状況;石崎ら7)が作成した日本版小児身体的・心理社会的症状チェックリストの35項目(pediatric Symptom Checklist;以下PSCと略称する)で、「全くない」0点、「時々ある」1点、「しばしばある」2点の3件法とした。全35項目を得点化して合計点をPSC得点とした。なお,得点が 高いほど子どもの心身の健康度が低いことを示している。また,カットオフ値17点を基準にして17点未満を「標準群」、17点以上を「非標準群」とした。
4)分析法:まず修正SADQの13項目から合算して総得点を算出した。またサブスケール4尺度の得点を基に、内的一貫性を表し信頼性reliabilityをみるための尺度Cronbachのα係数を検定した。さらに,修正SADQのサブスケール(4尺度)の構成概念妥当性を再検証、及びPSC得点との関連性をみるためにピアソン積率相関関係で解析した。また,修正SADQのサブスケール及びPSCの平均得点における小・中学生の学齢別の比較には、Wilcoxon順位和検定を用いた。次に,SADQ得点の上位から75%までを「高群」、下位から25%までを「低群」、その中間を「中群」として3群に分類した。その3群とPSCの2群「標準群」「非標準群」との連関性検定には、Manntel-Haenzel testを用いた。さらに,修正SADQのサブスケール「affection」「communication」「travel」「aggression」の4項目とPSCの「標準群」と「非標準群」との比較、及び親の「理解」に対する「満足群」と「非満足群」の2群との比較には、Mann-Whitney検定を用いた。



3 結果

  小・中学生とその親の調査対象数は、1146組であった。その回収率は、848組(71.2%)で、その中でも無回答の多いものや信頼性の低い等の調査票は、解析対象から除外した。したがって有効回答数は、親子ペア 653組(77.0%)であった。
1)対象者の特性
 調査対象の特性は、表1に示した通りである。全体総数653組の中で、小学生の親子ペア組は116組(40.3%)で、女子が144組(54.8%)で男子より約10%程多かった。一方、中学生のペア組は、390組(59.7%)で、男女比はほぼ同数であった。また,各学年別では、小学6年生は男子が39.7%、女子が60.3%で約20%程高い割合が示した。他の学年は、ほぼ男女差を認めなかった。
2)修正SADQサブスケール、PSCの平均得点とα係数
 修正SADQのサブスケールとそれの総計(以下,SADQと略称する)の平均点(標準偏差)とCronbachのα係数は、表2に示したとおりである。修正SADQのサブスケール4項目,及びSADQは、小学生の方が中学生よりも有意に高値を示した。また質問紙項目の内的一貫性を表し信頼性の尺度であるα係数は、「travel」を除いた他の3つのサブスケール、SADQとPSCにおいて0.7〜0.9の高い信頼性を認めた。
3)修正SADQのサブスケールとPSC得点との相関関係
 修正SADQの4つのサブスケール、SADQとPSC得点との相関関係については、表3に示したとおりである。まず全体をみると、「aggression」が中程度の相関(r=0.51, p<.001)、次いで「SADQ」が弱い相関(0.34, p<.001)を有意に示したが、他の項目は相関を認めなかった。学齢別でみると、小学生は「aggression」が中程度の相関(r=0.45、p<.001)を有意に示したのみであった。一方 中学生では「aggression」が中程度の相関(r=0.57、p<.001)、「communication」が(r=0.30、p<.001)、「travel」が(r=0.27、p<.001)の弱い相関を認めた。
4)PSC分布、学年別にみた非標準群の男女の比較
 子どもの心理的社会的健康状況を評価するPSCの35項目の得点を総計し、それをPSC得点とした。その分布は、図1に示したとおりである。全体の平均は12.7点(SD9.07)であった。また、学齢別にみると、小学生は男子が13.1点(SD9.1)、女子が12.7点(SD9.6)で有意差を認めなかった。一方、中学生は、男子が13.1点(SD9.3)で、女子が11.5点(SD8.3)で5%水準の有意差を認めた。次に、PSC得点が17点以上の「非標準群」の割合は、小学生が263名中70名(26.6%)で、中学生は390名中115名(29.5%)で、学齢差を認めなかった。次に学年別、性別に「非標準群」の割合は、図2に示したとおりである。学年の進行とPSC「非標準群」の小児の割合には、有意な関連性を認めなかった。性別の比較では、小学6年生を除いて男子の方が女子よりもPSC得点が高い傾向にあった。
5)学齢別・性別でみたPSCの2群と修正SADQの3群との関連性
 学年別に修正SADQの4つのサブスケールにみる依存状況を図示した。まず「affection」(図3-a)は、小学生に比較して中学1年になると接触欲求がやや大きく下降し、それ以降横ばいで推移し性差を認めなかった。「commnication」(図3-b)では,学年進行に伴って男女差が生じた。男子の方が学年が上がるにつれて漸減しいくが、女子では中学1年以降横ばいで推移し、性差を認めた。「travel」(図3-c)は、女子の方が男子よりも同伴欲求が低い状況に推移しているが有意差はなかった。「aggression」(図3-d)は、全体的男女とも学年進行に伴って漸減し性差を認めなかった。
 小・中学生の学齢別・性別にみたPSC(2群)と修正SADQ(3群)との関連性については、表4に示したとおりである。小学生と中学生、男子と女子のいずれにおいてもPSCの「非標準群」の方が「標準群」よりもSADQの「高群」の割合が有意に高い傾向にあった。さらにSADQのサブスケール(4項目)とPSCの2群との比較については、表5に示したとおりである。まず小学生をみると、4つのサブスケール全てに、「非標準群」の方が「標準群」よりも得点が有意に高い。一方中学生は、「affection」を除いた、他の3サブスケールに有意差を認めた。小・中学生の双方とも、「aggression」の得点が高く、次いで「communication」であった。
6)PSC(2群)からみた家族評価の学年別推移、及び親の「理解」に対する満足 と修正SADQのサブス ケールの比較
 小・中学生の家族生活に対する評価についてPSCの「標準群」と「非標準群」の2群の比較は、図4に示したとおりである。全体的にみると、小学5年から小学6年にかけてやや大きく評価が下がるが、それ以降は学年が進行するにつれて家族生活への評価がゆるやかに漸減する傾向にあった。
 親からの「理解」に満足度では、修正SADQの4つのサブスケールとの比較について表6に示したとおりである。修正サブスケールの4項目の中で「aggression」の項目のみ、「非満足群」の方が「満足群」よりも1%水準で有意差を認め攻撃的言動が多かった。また性別では、男子の場合には中学生で、女子の場合には小学生に、「非標準群」の方が有意に「aggression」の得点が高かった。親からの「愛情」に満足しているか否かと、修正SADQのサブスケール、及びPSC得点との間には有意な関連性を認めなかった。



4 考察

  健康な小・中学生の母子関係における自立−依存状況を横断的に検討し、さらにその母子依存関係の評価と小児の心理的社会的健康状況との関連性について、以下に述べる。
1)修正SADQのサブスケールとPSCの信頼性
 本調査の修正SADQのサブスケール得点は、4つのサブスケールとも小学生よりも中学生の方が有意に低かった。この質問紙法を標準化した倉本6)の調査報告と同様の結果であった。ただ、全サブスケールの平均得点は、本調査の小・中学生の方が双方とも、平均得点及び標準偏差ともやや高い傾向にあり、母親との依存関係がやや高く、しかもやや個人差が大きい状況にあった。
 この修正SADQの質問項目についての信頼性reliabilityは、内的一貫性を表すα係数が「travel」を除く、「affection」が0.7、「communication」が0.7-0.8で、「aggression」が0.7で、「SADQ」が0.5-0.6で高い信頼性を認めることができた。また,PSCのα係数も0.9と高値で信頼性が示された。やはり,「travel」は、0.2-0.5と信頼性が安定せず、周辺の地理的状況や交通機関の発達等に大きく影響を受ける尺度として難点があることが本調査でも明らかになった。
2)PSC得点と修正SADQのサブスケールとの相関関係
 まず本調査の全体的PSCの平均得点は,11,2点で、山間部に在住する小・中学生を対象に調査した石崎らの結果よりも約3点程高かった。これは本調査の対象が心理的ストレス度が高い都市部に在住する小児の割合が高く、生活する地域環境の違いからくるものと考えられた。高いPSC得点を示した小児は、Life eventの数との間に有意な正の相関があることも明らかにされている6)7)。また、回答の選択が3件法で、「時々」と「しばしば」の解釈のあり方に影響を受けたことが考えられた。PSC得点と修正SADQサブスケールとの関連性は、「aggression」のみと1%水準で中程度の相関関係(r=0.51)を認めた。他の「commnication」(r=0.25)、「travel」(r=0.24)の2サブスケールとは弱い相関関係で、「affection」とは無相関であった。つまり、子どもの心理的社会的健康状況の把握には、攻撃的言動に関わる日常生活上の行動面に着目するのが1つの指標になることが示唆された。
3)学齢別・性別でみたPSC程度と修正SADQとの関連性
 まず学年別の修正SADQのサブスケールの「affection」・「communication」は、小・中学とも女子が高値で、倉本(1996)の報告と同様な結果であった。「travel」も中学1年と中学3年を除いて男子の方が女子よりも母親と同伴欲求が高い傾向にあった。「aggression」は、小学5,6年生まで女子の方が男子よりも攻撃的言動が高い傾向にあるが、中学1年以降性差を認めなかった。これは,前述した報告とは異なっていた。これらの性差については,背景要因をもっと検討する必要がある。
 学齢別・性別にPSCの「標準群」と「非標準群」の2群とSADQの3群との関連性を検討した。まず、小学生では、男子の場合PSC程度とSADQ程度とは関連性を認めなかった。しかし,女子の場合には「非標準群」の方が「標準群」よりも1%水準でSADQの程度が高い傾向にあった。一方、中学生では、男女双方とも「非標準群」の方が「標準群」よりも1%水準でSADQの程度が高い傾向にあった。次に、修正SADQのサブスケールとPSCの2群との比較検定では、やはり「affection」を除いて、小・中学生の双方とも「非標準群」の方が「標準群」よりも有意に依存関係が高いことを示した。つまり、子どもの心理的社会的な健康問題が母子への依存関係を高めているか、或いは母子依存関係の有り様が子どもの健康面に悪影響を与えていることが推察される。このPSC尺度の妥当性の検討の中で、基準関連妥当性をみるためにうつ状態を評価するCDI(Children's Depression Inventory)とPSCとの比較検討した調査では、Peason積率相関関係が0.44(p<.001)で正の相関を認めている6)。つまり、特に中学生では、母子の依存関係が年齢に比して高い場合には、心理的社会的健康度が低く、精神医学的健康問題をもちやすい傾向にあることが示唆された。
4)家族生活の評価、親の「理解」に対する満足度とPSCとの関連性
 まず家族生活の評価における学年の変化は、学年進行が進むにつれて漸減していく傾向にあることが分かった。しかも「非標準群」の方が「標準群」よりも家族生活の評価がさらに低く、その評価が近接することもなく平行に推移していた。やはり家族生活における対人関係は、子どもの心身の健康に深く関与していることが分かった。また,親の「理解」に対する満足度が修正SADQのサブスケール「aggression」に中程度の相関を示し、「非満足群」の方が「満足群」よりも攻撃的言動の行動面で母親に対して甘えの裏返しとして依存性を高く示す傾向にあることが分かった。この事は、小学6年生を対象にした子どものうつに関連した家族要因に関する検討をおこなったHori8)らの報告とも関連した。それは、抑うつ傾向の認められる子どもは攻撃性を訴えることが多いことや、life eventと抑うつ傾向とは関連し、思春期の子どもの場合には友人や家族とのコミュニケーションの悪化に関与することを明らかにしている。
 従って、日常生活の中で遭遇するlife eventをどの様に受けとめているか親子で、そのことを共有する機会をつくり、どの様に意味づけたり価値づけているかを双方で意図的に理解をもつことが重要である。そのことの積み重ねが小児期の健全な対人関係を形成する1つの要素になることが示唆された。



5 今後の課題

 本調査では、母子依存関係と子どもの心身の健康面との関連性について明らかにする事ができた。今後の課題として小児の対人関係の発達過程において親子の依存-自立関係を適度に変化させてことを阻害する要因について検討を重ねていくことである。
<文献>

1)Ikemi Y,Ikemi A;Some Psychosomatic disorders in Japan in a culture perspective. Psychother Psychosom 38:231-238,1982.
2)佐々木恭子;3歳時点における母子分離状態と思春期の自我構造との関連性について,自我発達に関する3才,13才との共通性,神戸大学医学部紀要,53 (3-4):189-204,1993.
3)大山建司,渡邉タミ子,他;小児の対人関係の歪みに関する研究 小児慢性疾患児の母子依存関係を中心に,成長科学協会研究年報,24:107-118,2001.
4)坂井明美,島田啓子,他;思春期男女のストレスと母親の養育タイプ,親子の対話時間に関する横断的調査,思春期学,17(3):345-350,1999.
5)榎戸芙左子,平口真理,他;青少年期のQOL(1) 調査票の開発と中学生の調査結果,北陸神経精神医学雑誌,9:22-32,1995.
6)倉本英彦:日本版自記式依存質問紙法(修正SADQ)の標準化,小児の精神と神経,36(2):147-161,1996.
7)石崎優子,深井善光ら;Pediatric Symptom Checklist 日本語版のカットオフ値,日本小児科学会雑誌,第104巻,第8号,2000.
8)Jellinek MS,Murphy JM,et al;Pediatric Symtom Checklist:Screning school-age children for Psychosocial dysfunction. J Pediatr,112:201-209,1988.
9)Hori Atsumi,Takada Haruko:子どもの抑うつに関連した家族要因についての調査研究(英語),岐阜大学医学部紀要 47(6);228-239,1999.


































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