指定課題研究報告
遺伝子異常による成長障害の研究
成長ホルモン放出ホルモン受容体異常症−変異受容体の基礎的・臨床的解析
国立小児病院(現・国立成育医療センター)内分泌代謝科、
University of Virginia Health Sciences Center*
堀川玲子、小林泉、田中敏章、Bruce D Gaylinn*
【はじめに】
近年、成長ホルモン単独欠損症の病因のひとつとして、成長ホルモン受容体の遺伝子異常が明らかとなった。1996年に成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)受容体異常による低身長症症例が報告され、以後複数の変異が報告されている1−5)。我々は成長ホルモン単独欠損症の日本人症例で本邦で初めてのGHRH受容体遺伝子変異を見いだし報告した6,7)。この変異受容体は現在までの報告にあるものとは異なり、第7膜貫通部位の4塩基欠失によりフレームシフトをおこし、premature stop codonを生ずるため細胞内C端を欠いていた。本研究ではこの変異受容体の構造と機能を解析した。また、この受容体変異をヘテロで有する保因者が低身長の傾向にあることから、変異受容体の野生型受容体に対する作用をin vitroで検討した。
【GHRH受容体遺伝子解析】
GH単独欠損症患者より文書にて同意取得後、患者の末梢へパリン血より白血球を分離、ゲノムDNAを抽出し、GHRH受容体遺伝子全13エクソンをPCRで増幅、直接シークエンス法にて解析した。PCRに用いたプライマーは、各エクソンを挟むイントロンに設定し、エクソン−イントロン接合部も含め解析した8)。その結果、第7膜貫通領域のエクソン12にdel 1121-1124の4塩基欠失を認めた。制限酵素 Fok I を用いた解析の結果、患児はこの変異のホモ接合体で、父母および二人の姉妹は同変異のヘテロ接合体であった。この欠失の結果、frame shiftがおこりpremature stop codonを生じ、第7膜貫通領域中途から細胞内C端に至る50個のアミノ酸を欠き、新たに8個のアミノ酸が付加された受容体が形成されることが予想された。複数のコンピュータープログラムによる膜貫通領域の解析の結果、変異第7膜貫通領域はα-ヘリックス構造をとらず、従って受容体の第6膜貫通領域以降C端は細胞外で終わっていると考えられた(図1)。
【変異受容体機能解析】
変異受容体(TM7)をrecombinant PCR法によるsite-directed mutagenesisにより作成し、HEK293細胞を用いて既報の発現実験9)を行った。変異受容体はGHRHに対するcAMP の反応を認めず、結合能も認めなかった(図2)。よってこの変異がGH欠損症の病因であると考えられた。
【変異受容体のRNA・蛋白発現】
TM7を強制発現させたHEK293細胞と、野生型受容体(WT)を強制発現させた同細胞よりRNAを抽出した。RNA抽出は細胞数を揃え、QuiagenのRNA/DNA抽出キットを用いて行った。抽出したRNAより、RT-PCRにより半定量的にRNA発現量を検討し、両者で比較した。内因性のコントロールとして、β−アクチンを同時にRT-PCRで増幅、比較した。β−アクチンの増幅がほぼ等しいときにTM7とWTのRNA発現量をみると、TM7ではWTよりもRNA発現が多い傾向が認められたが、有意差はなかった(図3)。蛋白の発現は、既報のwestern blotting法にて行った8)。TM7は、粗な膜分画でも、精製された膜分画でも明らかな発現は認められなかった。WTは細胞膜分画で発現が認められた(図4)。
【変異受容体と野生型受容体の共発現実験】
WT1に対しTM7を0.5, 1, 2, 4の割合でHEK293細胞に共発現させ、安定発現系を作成した。それぞれの系においてcAMP産生とGHRHとの結合能を検討したところ、TM7は容量依存性にWTの機能を阻害した(図5,6)。共発現系における各々のRNAと蛋白発現を調べた。RNAは、RNase protection assayにより検討した。その結果、RNA発現は両者に認められたが、蛋白発現はWTのみに認められ、その発現も容量依存性に障害されていた(図7-9)。
【考察】
GHRH受容体はG蛋白共役受容体(G-protein coupling recetpor; GPCR)の一つで、分子内に七箇所の疎水性アミノ酸残基の多い部分を有し、7回膜貫通型受容体と考えられている9)。現在までにヒト10,11)、ラット11)、マウス12)、ブタ13)、ヒツジ、ウシ8)の受容体がクローニングされており、最近ではgoldfishにおいても類似受容体がクローニングされた14)。ヒツジ以外の種では423個のアミノ酸から構成されている8)。ヒツジは、細胞内C端のアミノ酸16個を欠くtruncated formである。遺伝性GH単独欠損マウスlit mouseにおいて、GHRH受容体異常症が報告され12)、ヒトでも1996年にWajnrajchらが、GRF受容体exon3のナンセンス変異ホモ接合体(Glu72Stop)を報告し1)、以後同じ変異が2家系から2.3)、イントロン1の変異によるスプライシングエラーが一報告4)、また、家族性のIGHD IB において、GHRH受容体のミスセンス変異が報告された5)。従って、遺伝性の強いIGHDにおいては、GHRH受容体変異がGH欠損の病因としてそれほど低頻度ではないものと思われる。
我々は、GHRH受容体異常症の本邦初例を発見し報告した。変異受容体は、第6膜貫通領域までを有し、その先は細胞外で終了する、細胞内C末端を欠くtruncated formだった。機能解析より、この受容体はリガンドとの結合能・cAMP産生を示さず、機能を喪失していることが分かった。変異受容体の細胞での局在は明らかではない。発現実験において、RNAの合成までは確認されたが、蛋白としての受容体の存在は認められなかった。RNAが作られていて蛋白が確認されない理由として、次のことが考えられる。1)実験方法の問題(Western blottingにおける抗体の問題等)、2)蛋白として生成されるが分解・消失が早く検知できない、といったことである。本実験で使用した抗体は、GHRH受容体N端を認識するもので、リコンビナントPCRで作成した細胞内C端を欠くGHRH受容体は同抗体で確認できた。このことから、第7膜貫通領域のアミノ酸の欠失あるいは付加された8個のアミノ酸が抗体との反応を阻害する働きがあるのでなければ、1)の理由は考えにくい。RNAから蛋白合成への転写が傷害されているとは考えにくく、現時点ではこの変異受容体は合成されるもののデグラデーションが早いのではないかと考える。RNAの発現がむしろ亢進していた点は、理由は不明である。目的の蛋白の代謝回転が速いことがRNA発現量に何らかの影響を及ぼす可能性は否定できない。
共発現系において、変異受容体は野生型受容体の機能を容量依存性に阻害した。細胞膜上に蛋白としての発現が確認できない受容体が、どのような機序で野生型受容体の蛋白発現と機能を阻害するのかは不明である。上に述べたように、代謝回転の速い変異受容体が野生型受容体蛋白の代謝にも何らかの影響を及ぼしている可能性も考えられる。
【結語】
著明な低身長を呈するGH単独欠損症児よりGHRH受容体変異を見いだし機能解析を行った。変異受容体はリガンドとの結合能・cAMP産生を有さず、これがGH単独欠損の原因であることが明らかとなった。変異受容体は、RNA発現はむしろ亢進していたが、蛋白としての発現を認めることができなかった。しかし、野生型受容体との共発現実験において、dominant negativeの機能と発現阻害を容量依存性に有することが示された。
文献
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