指定課題研究報告
成長ホルモン治療のアドバース・イベントに関する研究
主任研究者 横谷 進 (虎の門病院小児科) 齋藤 友博 (国立小児病院小児医療研究センター環境疫学) 田中 弘之 (岡山大学大学院医歯学総合研究科) 谷澤 隆邦 (兵庫医科大学小児科) 寺本 明 (日本医科大学脳神経外科) 西 美和 (広島赤十字・原爆病院小児科) 渡辺 昌 (東京農業大学応用生物科学部栄養科学科)
成長ホルモン治療に関するアドバース・イベント(AE)について、次のような検討を行った。
1. 治療成績報告書に記載されたAE情報の抽出(分担:谷澤、田中、横谷)
2. 各企業からの「使用成績調査」の集計について−経過報告−(分担:横谷、齋藤)
3. 2001年の文献からのAE情報(分担:西)
それぞれについて報告する。
1.治療成績報告書に記載されたAE情報の抽出
(1) 成長ホルモン分泌不全性低身長症とターナー症候群
2001年度(2001年1月1日〜12月31日受付)の治療成績報告に記載されたAEをすべて以下に掲載し、コメントを付した(表1, 2)。
(2) 慢性腎不全
2001年11月30日までに成長科学協会に申請された慢性腎不全性低身長症例数は、298例で、そのうち適応が認められたものは292例である。申請時年齢は12-13歳に最大ピークがあり、ついで幼児期に小さなピークがある。
1997年9月から2001年11月30日までの4年間に継続申請のあった173例のなかに28例の有害事象と主治医が判断した報告があった(表3)。内容を大別すると、3群に分けられ、因果関係を推測される、あるいは判定できないというA群は3例のみであった。重篤な有害事象は観察されなかった。
- A群3例⇒因果関係が推測される、あるいは判定できない事象:甲状腺機能低下症、頭蓋内圧亢進(1か月で消失)、けいれんである。
- B群7例⇒慢性腎不全に伴う合併症と考えられる事象(成長ホルモンによる身長の増加による可能性も一部否定できない、あるいは、保存的治療管理の不備な事象):腎性骨異栄養症、くる病性変化、膝関節痛、高ALP血症、副甲状腺機能亢進症などである。
- C群18例⇒慢性腎不全の進行に伴う事象(自然経過と考えられる事象)、あるいは関係がないと考えられる事象:透析導入、血清クレアチニン・尿素窒素の上昇、貧血進行、感染症、色素沈着、コンプライアンス低下、透析困難などである。
(3) 軟骨異栄養症
1997年6月から2001年12月3日までに成長科学協会に軟骨無形成症として登録された、成長ホルモン療法を施行中の患者445例の登録データをもとに、AEのチェックと治療効果について検討した。
登録数: 1997年開始当初は200例で1998年には約半分の104例、さらに1999年には53例と減少しているが、その後2000年には45例、2001年17例で新規登録患者の頻度は4−6歳に最も高くなってきていることから、今後は新規に開始される患者はおよそ40−50例/年程度に安定するものと考えられる。
有害事象: 2002年度になって初めてAEについての記載が確認された。治療中のAEは4例に認められ、うち2例では次年度の治療が中止された。このうち1例では、大孔狭窄、水頭症、脊髄馬尾圧迫、脊柱管狭窄、神経障害を認めた。他の3例においては重篤な副作用を認めるとの記載のみであった。また別の1例では、治療開始時に神経症状以外の重篤な副作用ありとして、治療は開始されなかった。登録原票に溯って検討する必要があるが、他の調査成績によるとO脚の増悪がこの重篤な副作用に相当するものと考えられた。
治療効果: 身長増加は開始後1年で有意に増加しており、平均1.38 cm/yearの増加であった。しかしこの効果は、治療期間が2年−4年と増加するにしたがい、治療前と有意な差を認めなくなった。
考察
本年度になって初めてAEを記載したものが認められた。多くの症例において、開始時には大孔狭窄、水頭症、脊髄馬尾圧迫、脊柱管狭窄、神経障害などは認められるはずであり、登録時にはこれらが記載されていない可能性がある。
正確な有害事象の把握のためには、開始時にこのような所見が軽微であっても、記載されることが必要で、これによって治療適応が左右されないことを明記しておく必要があると考える。また、AEとして当初は神経系の障害のみに重点が置かれたため、記載項目に具体性が乏しいことも有害事象記載の妨げとなっている。少なくとも内反膝(O脚)、アーノルドキアリ奇形、脳室拡大、アデノイド肥大などは頻度の高いものであり、AEとして取り上げるべきものと考える。
2.各企業からの「使用成績調査」の集計について(経過報告)
国内における成長ホルモン製剤の成長ホルモン分泌不全性低身長症への使用は1988年9月15日に始まり、以後10年間の使用成績調査は販売5社によって集計され、すでに厚生省に報告されている。厚生省が再審査結果を告示した後に、5社からAEにかかわるデータの提供を受けることができれば、9000名以上の症例の集積が可能になる。
そのために、成長科学協会アドバース・イベント調査研究委員会では5社に協力を要請し、各社から積極的な協力を得ることができた。2000年6月から10月までの間に、各社を通じてすべての主治医に働きかけ、使用成績調査のデータの使用についての了承を取得するように努力した。その結果、2002年1月までに該当する新規治療開始症例数合計8659例のうち6920例(79.9%)について、データ使用の了承が得られた。
2002年度には、使用成績調査のデータの電子ファイルは、各社で形式が異なり、また提供できる調査項目にも種々に違いがあることがわかったので、その調整を行った。提供を受け解析を行う項目は診断名、合併症、成長ホルモン投与量、回路、回数、併用薬剤、AEとその経過、各種臨床検査等である。
今後、厚生省の再審査結果の告示を待って各社から匿名化されたデータの提供を受け、AEの検討を行う。
3. 2001年の文献からのアドバース・イベント情報
1) 石原 正行、他:拡張型心筋症を合併した下垂体前葉機能不全の1例.
小児科臨床 54: 985-989, 200115歳女児、7歳時GHDと診断加療.9歳時complete AV blockで2) 津留 徳:成長ホルモン療法が腎の形態及び機能に及ぼす影響.
ペースメーカー植え込み術、下垂体前葉機能不全と診断.
13歳時 拡張型心筋症と診断. 一時期GH治療中止、その後再開
小児科臨床 54: 1431-1434, 2001GH治療前と12カ月後に検討.
腎の長径は身長の伸びとともに有意の成長.
尿中微量アルブミンも有意に上昇 ← 急激な腎の成長による糸球体
の肥大がhyperfiltrationを起こしたためか
3) 百井 亨、他:成長ホルモン投与により末端肥大症状を呈した
ターナー症候群の1例.
第104回日本小児科学会学術集会 H13年5月、仙台
45,X、 9歳4カ月からGH治療(1 IU/kg/W)、4) 荒木 久美子、他:P-70.GH分泌不全を合併した歌舞伎メ−キャップ
治療6年目に手足が大きいことに気づかれる、
下顎、眼窩上部の突出
症候群の男児例.
第35回日本小児内分泌学会 H13年10月、東京
下垂体低形成、身長の伸び良好
5) 安原 昭博、他:成長障害を呈する歌舞伎役者様顔貌症候群の1例に
対する成長ホルモン補充療法の効果.
第35回日本小児内分泌学会 H13年10月、東京13歳2カ月男児、GH治療開始後成長速度正常化6)小野 真、他:P-82. rGH療法中に大腸癌を発症したTurner症候群の一例.
第35回日本小児内分泌学会 H13年10月、東京
45,X、 8歳7カ月時よりGH治療、14歳2カ月時大腸癌と診断7) 今井 正、他:P-83. 成長ホルモン治療中にネフローゼ症候群を発症した
Tuner症候群では大腸癌の発症率が高いというデンマークからの報告がある
(Gravholt, 1998)
ターナー症候群の1例.
第35回日本小児内分泌学会 H13年10月、東京
45,X/46,X,i(Xq(q10)、5歳8カ月時からGH治療開始、8) 佐々木 博、他:成長ホルモン療法中に診断された腎疾患3例の検討.
8歳9カ月時ネフローゼ症候群合併と診断、GH治療中止
第36回日本小児腎臓病学会学術集会 H13年6月、東京[症例1] 11歳男児、GH治療開始前から微少血尿あり、9) 赤坂 真奈美、他:特発性成長ホルモン分泌不全性低身長と診断し
1年後に高度蛋白尿出現、IgA腎症、GH治療中止
[症例2] 9歳男児、GH治療開始前は尿所見異常なし、
4.5年後に溶連菌感染後の血尿、IgA腎症、GH治療継続
[症例3] 11歳男児、GH治療開始3年後にネフローゼ症候群発症、
GH治療中止
成長ホルモン補充療法中に脳腫瘍を発症した1例.
日本小児科学会雑誌 105:630, 2001
第101回日本小児科学会岩手地方会 H11年12月
7歳から急激に成長率低下、10歳時 完全型GHDと診断、10) Tomlinson JW, et al.: Association between premature mortality and
下垂体MRI正常、GH治療開始後1年5カ月後頑固な頭痛、
頭部CTで脳腫瘍認める
hypopituitarism. Lancet 357: 425-431, 2001.
1014例の英国人下垂体機能低下症患者(男性514例、女性500例)、11)Kohno H, et al.: Lancet 357: 1972-1974, 2001
573例 (57%) 非機能性下垂体腺腫、118例 (12%) 頭蓋咽頭腫、
93例 (9%) プロラクチン産生腫瘍.
予測死亡率 96.7、実測死亡率 181 (SMR中央値 1.87
[99%CI 1.62~2.16]、P<0.0001
死亡率は男性 1.57[1.28~1.93]、女性 2.29 [1.86~2.82]と
女性のほうが高い → 女性が高い理由は不明
死亡率は若年患者、頭蓋咽頭腫患者、放射線治療歴がある患者
に高い
未治療の性腺刺激ホルモン欠損症が死亡率と関連
未治療2.97[2.13~4.13], 治療 1.42 [0.97~2.07]
他の下垂体ホルモン欠損症は死亡率と無関係
死亡の原因は心血管系、呼吸系疾患、脳血管障害による
この報告に対する correspondence,
GHD患者数が少ない11) Sas T, et al.: Carbohydrate metabolism during long-term growth
1014例中111例にしかGH分泌刺激試験が行われていない
そのうちの98例がGHD
下垂体機能低下症においては、基礎疾患や治療法はいろいろあり
それによっても死亡率は左右されるので、GHDと死亡率の
関連性は特発性GHDにおいて検討されるべきである
心血管系、脳血管系障害は脂質代謝も関連するが、体組成、
脂質プロファイルの検討がなされていない
hormone treatment in children with short stature born small for
gestational age. Clin Endocrinol 54: 243-251, 2001.
78例のshort stature children born small for gestational age12) Bad news about growth hormone treatment in the intensive care unit:
6年間のGH治療 (3 vs. 6IU/m2/day)、OGTTs, HbA1cを検査
GH治療は、BS levelsには影響なし、
空腹時insulin levels と glucose-stimulated insulin levelsは上昇
→ relative insulin resistanceを示唆
need for some clarification.
Current Opinion in Anaesthesiology 14: 127-129, 2001.
13) Dickerman RD, et al.: Bilateral median neuropathy and growth
hormone use: a case report.
Arch Phys Med Rehabil. 81: 1594-1595, 2000.
Elite bodybuilder男性がGHを使用していてbilateral median nerve15) Cimaz R, et al: Unexpected healing of cutaneous ulcers in a short child.
neuropathyを罹患 → GH abuseに警告
Lancet 358: 211-212, 2001.
男児、 3歳からの長期間の治療に無反応の下肢痛と潰瘍、14) Leschek EW, et al.: Effects of growth hormone treatment on testicular
10歳時 erythmalgiaと診断、
12歳時 GHDと診断後GH治療により下肢痛と潰瘍が治癒する
→ 他の難治性潰瘍病変の治療にGH療法の応用
function, puberty, and adrenarche in boys with non-growth
hormone-deficient short stature: a randomized, double-blind,
placebo-controlled trial.
J Pediatr 138: 406-410, 2001.
49例のprepubertal or early pubertal boys、15) Smit JWA, et al.: Six months of recombinant human GH therapy in
GH 0.074mg/kg, x3回/週、 final heightまでfollow
GH治療は, placebo群と比較してpubertal onset, the pace of puberty and
adrenarche, final testicular volume, plasma testosterone, LH, FSH,
DHEA-Sに差異はなし
patients with ischemic cardiac failure does not influence left
ventricular function and mass.
J Clin Endcrinol Metab 86: 4638-4643, 2001.
22例のischemic cardiac failure patients (19 男性、3 女性)16) Frajese G, et al.: Hypothalamo-pituitary surveillance imaging in
randomized controlled trial、 6ヶ月間のGH治療
6ヶ月間のGH治療はleft ventricular function and massに
影響しない
hypopituirary patients receiving long-term GH replacement therapy.
J Clin Endocrinol Metab 86: 5172-5175, 2001.
Adult onset GHD 100例 (60 男性、 40 女性、平均 46歳、17) Kawada Y, et al.: High prevalence of eosinophilia in growth hormone-
18-69歳)、
GH治療はtumor recurrenceに影響しない
deficient children. Pediatrics International 43: 141-145, 2001.
72例のGHD、 eosinophil counts >5% : 30例 (41.7%)18) Tajima T, et al.: Turner syndrome with Crohn diseas.
absolute eosinophil counts >350/μL : 27例 (37.5%)
GH治療によりeosinophil countsに影響しない
Absolute eosinophil count とL-dopa test でのGH頂値との間で
逆相関がみられた
Clin Pediatr Endocrinol 10:121 -124, 2001.
11歳時にTurner syndrome (45,X/47,XXX)と診断
16歳時にCrohn病と診断