指定課題研究報告
ヒトGH-N端ペプチドの生理的存在様式ならびにGH分泌異常症の代謝異常における意義に関する研究−ヒトGH(1-43)のELISA系の確立−


島根医科大学第一内科
村上宜男、清水 匡、越村邦夫、加藤 讓






はじめに

 成長ホルモン(GH)は191個のアミノ酸からなる蛋白ホルモンである。ヒト下垂体および血液中のGH様免疫活性は splicing variant の20K-GHやN端およびC端フラグメントを含む複数の分子型から構成されることが知られている1)。GH産生下垂体腺腫による末端肥大症患者や神経性食思不振症患者においては、血液中の総GHに占める20K-GHの比率が増加することが明らかにされた。しかし、種々の病態における分子型の構成の変化については、簡便な特異的測定法がないため、なお明らかではない。
 一方、近年GHの代謝調節における役割が注目されている。GHが抗インスリン作用を有することはよく知られており、GH過剰分泌状態は耐糖能異常や糖尿病を惹起するが、一方、成人GH欠損症患者においても耐糖能異常や内臓脂肪の蓄積など syndrome X に類似する病態が形成される。
 GHのN端ペプチド2)、GH(1-43)がインスリン感受性を高める作用を有することが動物実験で明らかにされた3, 4)。したがって、成人GH欠損症患者における耐糖能異常の成因の一つとして、GH(1-43)の相対的な低下が関与する可能性が考えられる。
 本研究では、ヒトGH(1-43)の生理的および病態生理学的意義について明らかにするために、ヒトGH(1-43)の特異的測定法を確立することを目的としてヒトGH(1-43)の enzyme-linked immnosorbent assay (ELISA)を確立した。



方法

ELISA系の作成

 ヒトGH(1-43)、すなわちFPTIPLSRLFDNAMLRAHRLHQLAFDTYQEFEEAYIPKEQKYSを固相法で合成した。Cys-GH(1-43)-KLHを免疫抗原として家兎を免疫してウサギ抗ヒトGH(1-43)血清を得た。Protein A affinity chromatographyを用いてウサギ抗ヒトGH(1-43)抗体を精製した。抗血清を1.5 M glycine緩衝液、3M NaCl、pH 8.9で平衡化したProtein A-Cellulofine カラムに添加し、緩衝液で非吸着物を洗浄後、IgG分画を0.1 Mクエン酸緩衝液、pH 3.0で溶出し、セントリコンYM−50で限外ろ過してphosphate buffered saline (PBS)で置換した。Protein A精製した抗ヒトGH(1-43)抗体(3 mg/ 1 mL)に対してビオチン試薬(1 mg/0.6 mL)を添加し、氷中で2時間反応させて抗体をビオチン化した。反応後、セントリコンYM−50で限外ろ過して未反応のビオチン試薬を除去した後、PBS 1mLで希釈した。ウサギ抗ヒトGH(1-43)抗体を1次抗体として用いるために96-wellマイクロプレートへ固相化した。Protein A精製した抗体を0.1 M NaHCO3で10 μg/mLの濃度に希釈し、マイクロプレートの各wellに100 μLずつ分注し、4℃で一晩静置した。4倍に希釈したBIock Aceを各wellに350 μLずつ分注し、4℃で3日間静置してブロッキングした後に用いた。
測定操作

 抗体固定化プレートの各ウェルのブロッキング溶液を除き、洗浄液(154 mM NaCl, 0.05% Tween 20)で洗浄した。各ウエルに緩衝液(10 mM phosphate buffer, pH 7.4, 1.3% BSA, 0.05% Tween 20) 200 μLおよび緩衝液で溶解した種々の濃度のヒトGH(1-43)標準液、ヒトGH溶液またはヒト血漿25 μLを添加し、4℃で一晩静置した。吸引、洗浄後、ビオチン化ウサギ抗ヒトGH(1-43)抗体溶液(0.5 ng/mL) 100 μLを添加し、室温で2時間振とうして反応させた。洗浄後、streptavidin-horse raddish peroxidase溶液100 μLを添加し、室温でさらに2時間振とうした。吸引、洗浄後、o-phenylendiamine 溶液(0.83 mg/mL) 100 μLを添加して室温で30分間反応させた後、2M H2SO4 100 μLを添加して反応を停止させた。マイクロタイタープレート用吸光度計で、492/620 nmの吸光度を測定した。



結果と考察

 ヒトGH(1-43)は13.8 fmol/mLから10 pmol/mLの範囲で測定可能であった(図1)。455 pmol/mLまでの濃度においてはヒトGHとは交差反応性を認めなかった(図1)。再現性試験においては、測定内および測定間のCVはそれぞれ1.56ないし4.09%、0.20ないし13.0%であった。添加回収試験においては、ヒト血漿に添加した場合の回収率は76.6〜92.9%と良好であった(表1)。
 ヒトGH(1-43)合成フラグメント−KLH複合体を免疫抗原として得られたウサギ抗血清からプロテインAにより精製し得られた抗体を用いてヒトGH(1-43)に対するサンドイッチ法ELISA系を確立した。ヒトGHとの交差反応性、定量の再現性ならびに回収率について検討した。
 本測定系は、ヒト血漿を用いた添加回収試験、同時再現性試験及び日差再現性試験の結果より精度よくヒトGH(1-43)フラグメントを測定できると考えられる。さらに、本測定系においては 10 μg/mLまでの濃度においてヒトGHが交差反応性を示さないことから、GH分泌過剰症患者の血漿検体においてもヒトGH(1-43)フラグメントを特異的に定量することが可能である。本測定系によるヒトGH(1-43)の測定は簡便で、しかも特異性、定量性にすぐれ、共存する他の生理活性物質や体液成分の影響を受けにくいなど多くの利点があると考えられる。

文献

1) Lewis UJ, Sinha YN, Lewis GP. Structure and properties of members of the hGH family: a review. Endocrine J 47: S1-S8, 2000.
2) Singh RNP, Seavey BK, Lewis LJ, Lewis UJ. Human growth hormone peptide 1-43: isolation from pituitary glands. J Prot Chem 2: 425-436, 1983.
3) Friger LG, Teguh C, Ling N, Wolff GL, Lewis UJ. Increased sensitivity of adipose tissue to insulin after in vivo treatment of yellow Avy/A obese mice with amino-terminal peptides of human growth hormone. Endocrinology 122: 2940-2945, 1988.
4) Salem MAM. Effects of the amino-terminal portion of human growth hormone on glucose clearance and metabolism in normal, diabetic, hypophysectomized, and diabetic-hypophysectomized rats. Endocrinology 123: 1565-1576, 1988.







表1 添加回収試験の成績

添加ヒト GH(1-43)濃度
(ng/mL)
  観察値
  (ng/mL)
  回収率

ヒト血漿1 0.56    0.52    92.9% 
 1.67    1.47    87.8% 
 5.00    3.83    76.6% 

ヒト血漿2 0.56    0.52    92.9% 
 1.67    1.42    85.3% 
 5.00    3.92    78.4% 


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