指定課題研究報告
成人成長ホルモン欠損症患者における骨代謝マーカーについて


東京女子医科大学内分泌センター
對馬 敏夫、磯崎 収



研究目的

成人成長ホルモン欠損症(AGDH)の身体的特徴としては肥満(体脂肪率の増加)、筋力の低下などが知られている。GHは骨成長に不可欠であり、GHDにおける骨代謝の異常、あるいはGHの骨代謝に対する効果については多くの報告がある。しかし、これらの成績は必ずしも一致しているわけではない。例えばGHDにおける骨密度に関しては健常人とGHDの間で差を認めるものと認めないものがある。骨代謝の調節にはPTHをはじめ、栄養(カルシウム、リン摂取量ほか)、ステロイド、甲状腺ホルモン、ビタミンD, 体重、運動など多数の因子が関与することが成績に影響すると考えられる。本邦におけるAGHDの骨代謝に関する報告は極めて乏しい。そこでAGHDにおける骨密度、骨代謝に関与するホルモン、骨代謝マーカーについて検討した。



研究方法

対象

ADHD 22例(男子10例、女子12例,平均年齢45+/-19才)を対象とした。7例が小児期発症、残りは成人期発症でいずれもGH欠損症の経過は10年以上であった。小児期発症例はすべてGH治療の既往があった。全ての症例はGH以外の複数の下垂体ホルモンの欠損を伴っており、副腎不全、甲状腺機能低下症に対してはそれぞれ適切量のコートリル、サイロキシンによる補充療法を受けていた。また男子では1例を除きエナルモンデポーによる治療が行われていた。女子では60才以上の5例を除きエストロゲンを補充されていた。また尿崩症を合併した6例ではDDAVPによる治療が行われていた。患者の栄養状態は良好で、日常生活にも食思不振を訴える一例を除き問題がなかった。骨折の既往をもつ症例はなかった。
測定項目

骨密度(BMD)測定にはDEXA (Dual energy X-ray absroptiometry) を用いた(L2-L4)。血中intact PTH (i-PTH), osteocalcin, calcitonin, IGF-1 はRIA, あるいはELISAで測定した。骨代謝マーカーとしては尿中NTX, 骨型Alp (b-ALP)を用いた。



結果

結果を男女別に表(1)に示した。予想された如く、血液中のIGF-1濃度は61+/-33 ng/ml と著明な低値を示した。まず骨密度をZ-score で見ると-0.366+/-1.236と平均値よりも低下傾向を示したものの、ほとんどが基準範囲にあった(図1)。しかし特に40才以上の症例では大部分が平均値を下回った。また血中IGF-1濃度とZ-score (r=0.417, P=0.012), あるいはIGF-1とBMD(r=0.601, p=0.01) の間には正の相関が認められた。BMC(39.9+/-12.2), t-score(-1.128+/-1.637)とIGF-1の間には相関はなかった。 血中Caは9.1+/-03 mg/dl;mean+/-SD)、Pは3.5+/-0.6 mg/dl で基準範囲にあった。i-PTH (38.6+/-13 pg/ml) もすべて基準値内にあり、血中Ca濃度との間には負の相関が見られた(r=0.431, p=0.033)。 血清カルシトニン濃度は全て基準範囲にあった。オステオカルシン濃度(7.3+/-3.7 ng/ml) も基準値下限 (2.5ng/ml) よりも低値を示すものはなかった。もう一つの骨形成マーカーである骨型ALP (b-ALP)は年齢、性別をマッチさせた基準範囲を下回るものは男女各一名ずつに過ぎなかった。骨吸収マーカーである尿中NTXは34.0+/-17.2 で女子1例(222 nmol BCE/mMol Creatinine) を除き基準値をはずれるものは見れらなかった。 オステオカルシン濃度とb-ALP の間には正の相関(r=0.687, p=0.05) があった。血中1,25(OH)2D3濃度も全て基準範囲にあった。 NTX, 1,25(OH)2D3, b-ALPはいずれもIGF-1と相関はなかった。

表(1)成人GHD 患者の骨代謝マーカー

年齢BMI
(kg/m2)
IGF-1
(ng/ml)
Ca
(mg/dl)
P
(mg/dl)
iPTH
(pg/ml)
0steocalcin
(ng/ml)
b-ALP
(U/L)
NTX
(nMol/mM Cr)
V-D3
(pg/ml)
BMD
(g/cm2)

女子 48±19  22.3±3.1  55±24  9.1±0.4  3.4±0.6  42.0±13.3  7.4±3.5  30.3±14.9  29.9±18.7  35.2±12.7  0.857±0.165 
(-0.464±1.219)

男子41±1825.1±2.666±399.1±0.33.6±0.533.3±10.77.3±3.926.3±14.434.4±14.028.7±9.10.996±0.207
(-0.213±1.345)

合計45±1923.5±3.161±339.1±0.33.5±0.637.4±12.37.4±3.628.5±14.232.0±15.130.8±9.70.906±0.188
(-0.366±1.236)
注)値はすべてMean±SD で示した。 BMD の下に示した括弧内の値はZ-score



図(1)成人成長ホルモン欠損症患者における骨密度



考案

成長ホルモン欠損症患者における骨量の減少、GH治療によるその改善について既に多数の報告があり (1-7)、 またその程度はGH欠損の程度と相関するという(5)。更に最近本症患者における骨折の頻度が高いことも報告された(8)。今回の検討の結果ではAGHDのBMDは低値傾向を示したがほぼ基準範囲内にあった。しかしBMD と血中IGF-1とBMD, Z-score の間には正の相関があり、GHが骨量を規定する因子であることが示唆された。GHD におけるBMD が低下していないという報告もある(9)。BMDは性ホルモン、甲状腺ホルモン、栄養や運動など多数の因子によって規定される。またGHDの期間、発症時期、小児期におけるGH治療の有無などによっても修飾される可能性がある。報告間の差は、これらの因子の影響かもしれない。次ぎにカルシウム代謝の指標について検討した。カルシウム代謝において主要な役割を果たすi-PTHの血中濃度は正常範囲にあり、GHD の骨代謝変化におけるPTHの役割は少ないものと思われた。骨密度は骨形成と骨吸収のバランスによって規定される。GHDにおける、骨形成マーカー(オステオカルシン、骨型ALP、PICP ほか)や骨吸収マーカー(尿中NTX、ピリヂノリン、血中1CTPほか)については健常人よりも低値とするもの、差がないというものがあり一定しない。今回の成績ではオステオカルシン、骨型ALP, 尿中NTX はいずれも基準範囲にあった。これらのマーカーの正常範囲が極めて広いことも一因であろう。 またこれらのマーカーとBMDとの間に相関は認められなかった。GH投与によりこれらのマーカーが一過性に増加すること、すなわちGHによって骨代謝回転が増加することはBoot らの報告(10) ほか多くの報告から明らかである。ただ、小児期発症患者では成人期発症の患者に比してGH に対する感受性が低いという(11)。一般にGHによる骨代謝回転の増加はGH投与開始後数カ月以内の早期に認められるのに対してBMDの増加は年単位で増加する。したがって骨代謝マーカーとBMDの間に相関がないことは当然かもしれない。



まとめ

1) 成人成長ホルモン欠損症患者の骨密度は低下傾向を示すが、基準範囲にあった。
しかしBMD(Z-score) は血液中IGF-I と正の相関を示した。

2) 骨代謝マーカーも基準範囲にあり、BMDとは相関がなかった。

今回の検討ではなお症例数が十分ではなく、今後はより症例数を増やして検討すること、またGHの長期投与が骨代謝にとっても有益か否かを検討することが必要である。



文献

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9) Sartorio A, Ortolani S, Galbiati E, et al. Effects of 12-month GH treatment on bone metabolism and bone mineral density in adults with adult-onset GH deficiency. J Endocrinol Invest,24:224-30,2001

10) Boot AM, Engels AMMJ, Boerma CJM et al. Changes in bone minaral density, body composition, and lipid metabnolism during GH teatment in children with GH deficiency. J Clin Endocrinol Metab 82:2423-2428, 1997

11) Longobardi S, Di Rella F, Pivonello R et al. Effects of two years of growth hormone (GH) replacement therapy on bone metabolism and mineral density in childhood and adulthood onset GH deficient patients. J Endocrinol Invest, 22:333-339, 1999




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