指定課題研究報告
成長ホルモン(GH)作用異常症におけるGH-1およびGH受容体遺伝子の解析


神戸大学医学部第三内科
飯田啓二


はじめに

 成長ホルモン(GH)は、小児期の身体発育において不可欠なホルモンであり、GHの欠損や分泌不全によって成長障害が引き起こされることはよく知られている。GH分泌不全が証明されればGH治療の適応になるが、実際に治療の適応になるのは少数であり、大部分はGH分泌不全を伴わない、いわゆる原因不明の特発性低身長症である。特発性低身長症に対しては、治療法がないのが現状である。しかし特発性低身長症とされている症例の中にGH分泌は認められるにもかかわらず、血清インスリン様成長因子-I(IGF-I)および インスリン様成長因子結合蛋白-3(IGFBP-3)が低値でGH作用不全を疑わせる症例がときとして見い出される。そのような症例に中にはGH分子の構造異常による生物学的不活性型GHによる成長障害1)2)あるいはGH受容体(GHR)の構造異常によるGH不応症3)が含まれることがすでに報告されている。
 私達は特発性低身長症とされる症例のなかで、IGF-I およびIGFBP-3が低値を示す症例において、そのなかから治療可能な症例を見い出す目的でGH-1遺伝子あるいはGHR遺伝子の解析を行なった。変異が見い出された場合は、その変異がmRNAレベルでどのような影響をおよぼすかを、リンパ球を用いてRT-PCR 法で GHR cDNAを増幅し、直接シーケンス法で塩基配列を決定する。さらにその変異が低身長症の原因になり得るかどうかをin vitroで機能解析を行なう予定である。



対象

 -2.0SD以下の低身長症例で、GH分泌が正常に保たれているにもかかわらずIGF-I およびIGFBP-3が低値を示す症例を解析の対象とした。IGF-I generation testの結果、反応がある場合はGH-1遺伝子を、無反応の場合はGHR遺伝子の解析を行なった。IGF-I generation testがなされていない場合は、血清GH結合蛋白(GHBP)の値が低値もしくは高値の場合はGHR遺伝子を、正常の場合はGH-1遺伝子を解析した。判断困難な症例に対しては両者とも解析を行なった。



材料と方法

1. 遺伝子解析
 患者の末梢血白血球からゲノムDNAを抽出し、GH-1遺伝子およびGHR遺伝子のコーディング領域の各エクソンおよびエクソンイントロンの境界領域をPCR法にて増幅し、増幅産物を精製後直接シーケンス法にて塩基配列を決定した。図1に示すように、GH-1遺伝子に関してはエクソン2から5までの領域を2つの断片に分け、それぞれPCRで増幅した。GHR遺伝子に関してはエクソン2から9までは各エクソンを、エクソン10はさらに3つの断片に分けてそれぞれPCRで増幅した。PCRの条件は既報の方法を用いた
1)4)



結果

 平成12年度に遺伝子解析を行なった患者は,GH-1遺伝子が5例,GHR遺伝子が8例であった。GHR遺伝子のエクソン6におけるG168Gおよびエクソン10におけるL526Iは遺伝子多型である。解析例のうちGH-1遺伝子に変異を認めた症例はなく、GHR遺伝子においては、1例でエクソン4内にT51I(ACAからATA)のヘテロ接合体変異を同定した(図2)。その臨床データを表1に示す。現在 mRNAレベルでの解析および変異受容体の機能解析を実施している。



考察

 いわゆる特発性低身長症と呼ばれる症例の中に、IGF-I およびIGFBP-3が低値を示す症例が存在し、実際そのような症例のなかから生物学的不活性型GHによる低身長症が世界ではじめて当教室の高橋らにより報告された1)2)。この低身長症の臨床的特徴は、外因性のGH投与に対しIGF-Iが良好に反応し、身長増加も期待できる点であり、GH-1遺伝子解析により本症を確定診断することは極めて重要である。これまでに私達は70例以上の症例を解析してきたが、既報の2例以外には変異を同定できず、また他施設からの報告もなく極めて稀な疾患であることが示唆される。
 一方、1995年Goddard らにより特発性低身長症のなかに、GHR遺伝子のヘテロ接合体変異を有する例が存在することが報告された
3)5)。GHR遺伝子異常症はホモ接合体変異の典型例ではGH不応症の臨床像、すなわち外因性のGH投与に対しIGF-Iが無反応である特徴を有し、さらに大多数例で血中GHBP値が極端な低値を示すことが報告されている。しかしGoddard らの報告のようにヘテロ接合体変異を有する例ではGH不応性は多様である。これまでに私達は典型的なGH不応症例においてGHR遺伝子の複合型ヘテロ接合体変異を同定したのをはじめ6) 、優性遺伝形式をとるユニークなヘテロ接合体変異4)7)、GHRの機能に影響をおよぼさないと考えられる細胞内領域のミスセンス変異2種類8)9)を同定し報告してきた。今回さらにこれまでに報告のない細胞外領域のヘテロ接合体のミスセンス変異T51Iを同定し現在その機能解析を行なっている。GHR遺伝子異常はすでに約40 種類の変異が同定されており、ヘテロ接合体を含めると今後もさらに変異が同定される可能性があると思われる。しかしながら変異があってもGHRの機能に影響しないものも存在し、今後新たな変異を見つけだすのと同時にその機能解析により変異の病的意義を正確に評価していきたいと考えている。



謝辞

 本研究は小児内分泌研究者懇話会の会員の先生方をはじめ、貴重な症例をご紹介いただきました全国の小児内分泌専門の先生方の協力のもとになされたものである。ご協力いただきました諸先生方に深謝申し上げます。



文献


1)

Takahashi Y, Kaji H, Okimura Y,et al. Brief report: short stature caused by a mutant growth hormone. N Engl J Med. 334:432-6, 1996.

2)

Takahashi Y, Shirono H, Arisaka O, et al. Biologically inactive growth hormone caused by an amino acid substitution. J Clin Invest. 100:1159-65, 1997.

3)

Goddard AD, Covello R, Luoh SM,et al. Mutations of the growth hormone receptor in children with idiopathic short stature. The Growth Hormone Insensitivity Study Group. N Engl J Med. 333:1093-8, 1995.

4)

Iida K, Takahashi Y, Kaji H, et al. Growth hormone (GH) insensitivity syndrome with high serum GH-binding protein levels caused by a heterozygous splice site mutation of the GH receptor gene producing a lack of intracellular domain. J Clin Endocrinol Metab. 83:531-7, 1998.

5)

Goddard AD, Dowd P, Chernausek S,et al. Partial growth-hormone insensitivity: the role of growth-hormone receptor mutations in idiopathic short stature. J Pediatr. 131:S51-5, 1997.

6)

Kaji H, Nose O, Tajiri H, et al. Novel compound heterozygous mutations of growth hormone (GH) receptor gene in a patient with GH insensitivity syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 82:3705-9, 1997.

7)

Iida K, Takahashi Y, Kaji H,et al. Functional characterization of truncated growth hormone (GH) receptor-(1-277) causing partial GH insensitivity syndrome with high GH-binding protein. J Clin Endocrinol Metab. 84:1011-6, 1999.

8)

Chujo S, Kaji H, Takahashi Y, et al. No correlation of growth hormone receptor gene mutation P561T with body height. Eur J Endocrinol. 134:560-2, 1996.

9)

Iida K, Takahashi Y, Kaji H,et al.The C422F mutation of the growth hormone receptor gene is not responsible for short stature. J Clin Endocrinol Metab. 84: 4214-9, 1999.

 

 



Figure legend

図1

a. GH-1遺伝子の構造とプライマー設定
GH-1遺伝子は5つのエクソンからなる。エクソン2からエクソン5を含む領域を2つの断片に分け,PCRプライマーを設定した(矢印)。
b. GHR遺伝子の構造とプライマー設定
GHR遺伝子は10 個のエクソンからなる。エクソン2からエクソン10の各エクソンおよび近傍のイントロンをそれぞれ増幅するようにプライマーを設定した(矢印)。エクソン10はさらに3つの断片に分けた。

図2

患児のGHR遺伝子のエクソン4において,コドン51の第二塩基がCからTに変わるヘテロ接合体の変異を見い出した。この変異によりコドン51のスレオニンがイソロイシンに変わることが予想された。
表1 患児の臨床検査所見

暦年齢 9歳
身長  106.8cm
骨年齢 4歳10か月
各種刺激試験後のGH頂値(ng/ml)
 インスリン 1.97
 アルギニン 10.8
 クロニジン 9.1
血清IGF-I(ng/ml) < 30
IGF-I generation test 前後のIGF-I値(ng/ml)
(0.1U/kg/day 3日間)
 < 30 and < 30







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