指定課題研究報告
Very severe short stature with severe GHDに関する検討
−成長科学協会の登録データより−
成長科学協会成長ホルモン治療研究専門委員会
羽二生 邦彦 立花 克彦 藤枝 憲二 田中 敏章 五十嵐 裕 島津 章 田中 弘之 谷澤 隆邦 寺本 明 西 美和 長谷川 行洋 肥塚 直美 平野 岳毅 藤田 敬之助 横谷 進
緒言
近年遺伝子工学的手法により様々な遺伝子異常による成長障害例が発見されるようになってきた。これらの例では通常身長が標準のマイナス4SD以下で種々の負荷試験に対するGHの頂値が4mg/L以下であるとされている.しかし、この様な重篤な成長障害児の何パーセントが遺伝子異常により生じているのかは不明である。そこで、著者らは予備的な検討として、成長ホルモン分泌不全性低身長症のなかで著しい低身長を呈し、かつ著明なGH分泌不全を示す症例の割合とこれらの症例の臨床的特徴および成長ホルモンの治療効果等について検討を加えた。
対象と方法
1986年3月より1998年1月までに成長科学協会でGH治療の適応ありと認められ登録された成長ホルモン分泌不全性低身長症を対象とした(大多数が遺伝子工学によるヒト成長ホルモン製剤:recombinant human GH、 rhGHを使用)。また、対象は
非器質性で性腺抑制療法無しの症例に限定した。成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断は身長が同年齢のマイナス2SD以下であるか、年間の成長率が2年間にわたって同年齢のマイナス1.5SD以下であること。また、2種以上の負荷試験に対するGHの反応がいずれも10mg/L以下であるか、いずれか一方に10mg/L以下でかつ血中IGF-Iが明らかな低値を示すこと。いずれの負荷試験に対してもGHが正常な反応を示すが、夜間に20分毎、3時間における平均血中GHが3mg/L以下でかつ尿中GHや血中IGF-I が低値で、骨年令の遅延のあることより下された。
これらの症例を以下の6群に分けて検討した。
Group 1 (G1) 全症例
Group 2 (G2) GHのpeakが1つでも≧5
Group 3 (G3) 全てのGH peak<5
Group 4 (G4) 2 ≦ GH peak < 5
Group 5 (G5) 全てのGH peak<2
Group 6 (G6) G5のうち HtSDS≦-4
解析項目
1) 登録時の各グループ(G1〜G6)の人数(全体と男女別)
2) 出生時体重(男女別)
3) 出生時身長(男女別)
4) 在胎週数(全体と男女別)
5) 新生児仮死(全体と男女別)
6) 登録時暦年齢(全体と男女別)
7) 登録時骨年齢(全体と男女別)
8) 登録時骨年齢/登録時暦年齢(全体と男女別)
9) 治療開始時身長(男女別)
10) 治療開始時身長SDS(全体と男女別)
11) 治療開始時IGF-I(抽出法によるng/mlのみ)(全体と男女別)
12) 父身長
13) 母身長
14) 最終身長(成長速度2cm以下)(男女別)
15) 最終身長SDS (全体と男女別)
16) 身長SDS改善度(最終身長SDS-治療開始時SDS)(全体と男女別)
結果
1)登録時の各グループ(G1〜G6)の人数
図1に示すように解析の対象となった全症例数は28027例で負荷試験に対するGHの頂値が少なくとも一つ以上5ng/mlを示す症例は全体の89.1%と大多数を占めた。すべての頂値が5ng/ml 未満のいわゆるclassical severe GHDは全体の約10%であった。一方、severe GHD with severe short stature は144例、全体の0.5%に過ぎなかった。
2)出生時体重、出生時身長、在胎週数
出生時の体重と身長および在胎週数はいずれのグループも正常範囲であった(図2,3,4)。G6も男女共に他のグループと有意差がなかった。
3)新生児仮死
新生児の仮死率は全体で12.1%であったが、G5,G6では各々19.1%,21.0%と明らかに高い傾向を示した(図5)。
4)登録時暦年齢と骨年齢、および登録時骨年齢/登録時暦年齢
登録時暦年令の全体の平均は9.6歳であったが、G6は8.7歳と有意に低かった(P<0.005)(図6). また、登録時骨年齢も全体が7.0歳であったのに対し、G6は4.7歳と著明に遅延しており(P<0.001)(図7)、登録時骨年齢と登録時暦年齢の比も全体の0.72に対しG5,G6は各々0.65 (P<0.001),0.52 (P<0.001)と有意に低下していた。なお、G6はG5よりも低値であった(P<0.001)(図8)。
5)治療開始時身長と治療開始時身長SDS
G6以外はGH分泌能に拘わらず治療開始時の身長に差異が認められなかった(図9)。しかし、年令を考慮に入れた身長SDSはG1(-2.73±0.006)に比しG5では有意に低値であった(-3.12±0.078)(P<0.001). これはG2〜G4と比較しても同様であった。なお、G6の身長SDS(-4.99±0.078)はどのグループよりも著しく低値であった(P<0.001)(図10)。
6)治療開始時IGF-I
G6の治療開始時のIGF-I は他のどのグループのそれよりも低値であった(P<0.001).しかし、g1〜g5の間には明らかな差異が認められなかった(図11)。
7)父身長と母身長
患児の両親の身長は正常範囲内で、またいずれのグループ間にも差異は認められなかった(図12,13)。
8)最終身長と最終身長SDS
G6の最終身長は他のどのグループよりも低値であった(P<0.025). しかし、他のグループ間には有意差がなかった(図14). G6の最終身長SDS もG1〜G4よりも有意に低値であったが(P<0.025), G5 との間には有意差がなかった(図15)。
9)身長SDS 改善度
身長SDS 改善度はG6が最も良好であった(vs G1〜G5, P<0.025).なお、g1〜g5間には差異が認められなかった。
考案
Very severe short stature with severe GHD(G6)は28027例中144例、全体の0.5%であった。これらの群では出生時体重・身長、在胎週数は他の群と差異がなかったが、新生児仮死率は他の群よりも有意に高かった。これらの事実はG6の子宮内の発育が概ね正常であるが、これらの患児自身あるいは母体側に出生時に仮死を来す要因が他の群より大きかったことを示唆している。
G6の両親の身長は他の群と差異がなかったが、登録時暦年齢と骨年齢、骨年齢/暦年齢、治療開始時血中IGF-I は他の群よりも有意に低値であった。この事は出生後の発育不全が家族性ではなく、患児自体にその原因がある可能性を示している。
一方、身長SDSは分類上G6が最も低値であったが、G1〜G5においてはG5のそれが有意に低値であった。GH分泌不全例の中で、負荷試験に対するすべてのGHの頂値が2未満の例 (G6)ではそれ以上の値を示す例よりもさらに成長障害が著しく、これらの例は頂値が2以上の群と質的に異なっている可能性が考えられる。また、IGF-I がG6でのみ低値であったことはGH頂値が同じ2未満でもG6のGH分泌不全がG5よりもより重篤で、これらの群がG1〜G4、さらにはG5とも本質的に異なっている可能性を考えさせる。ただ、G5ではG1〜G4とIGF-I 値に差異が見られなかったが、G5の平均年齢が他の群よりも若干高かったことから、IGF-I の年齢別SD値よりSDスコアーを算出すれば何らかの差異が見られたかもしれない。
なお、G6ではヒト成長ホルモン治療により身長SDSは他のグループより明らかに改善したが、最終身長や最終身長SDSは他のグループより低値に留まった。治療開始時の年齢が若いことからG6の病院受診は他の群より早期であると考えられるが、最終身長の改善のためには身長SDSが余り低くない、より早期の成長ホルモン療法が望まれる。
以上、 Very severe short stature with severe GHD(G6)の成長障害は他のグループと同様に出生後に生じているが、これらのグループの病因は他のグループと本質的に異なっている可能性が考えられた。また、G6の最終身長の改善のためにはこれらの症例の早期発見、早期治療が不可欠と考えられた。